第5話 名前登録
テーブル席に座り、お茶(出涸らし)を
「それ……」
「ああ、これですか。ノートパソコンですわ」
ノートパソコンだと思ったら、ノートパソコンだった。
「わたくしたちの魔法技術の
「いや、俺たちの世界にもあったんだよ、それ。だから魔法技術じゃないのは確かだ」
「そうなのですか? えーっと、ミーナはご存知?」
指名されたミーナは、お茶を飲み干してから答えた。
「ノートパソコンというものの原型は、確かに異世界から持ち込まれたものよ。ただここにあるそれは、この世界の魔法技術により動いている」
「ということですわ」
またすぐに信用できないような話をする。
「ってことは、なんかWebシステムみたいなものを使って冒険者登録するってことですか?」
「Webシステムってなんでしょう?」
「それはないんですね」
「それはないですわ」
質問したのは
「質問は以上ですか? それでは、この紙にお名前をお書きくださいませ」
「え、パソコン使って打ち込むんじゃないの?」
「SQLが使えるなら……使えたりするでしょうか?」
SQLってなんだ。聞いたこともないぞ。
「使えないなら、わたくしが打ち込むしかないですわね。ほら、早くお名前をお書きになって」
紙に書きたくないんだよ。しかしここで時間を稼いでも、名前を笑われるという運命は変わらない。
二人同時に、アイラに手渡した。
「ありがとう。では早速入力いたしますわね」
なんと笑われなかった。
「…………は?」
しかしアイラの手が止まる。
「偽名……ふざけた名前ですわね。とりあえず消しましょう」
「アイラ。残念だけどそれ本名よ」
「ほんみょうぉー!」
ミーナ氏の言葉を聞いて、絶叫するアイラ嬢。
「あ! ちょっとなんてタイミングで言うのですか! びっくりしてWhere条件打つ前にDelete文実行しちゃいましたわ!」
「それやるとどうなるの?」
「ユーザ情報テーブルが飛びました……。自動コミット設定なので、バックアップテーブルから復元するしかないですわね」
「…………」
なんとなく面倒なことになっているのは分かった。
「はぁ、面倒ですわね。ところでこれ……」
アイラは名前の書いた紙をひらひらと振る。
「本当に本名なんですか?」
「ああ」
「あははははははははは!」
椅子から転げ落ち、腹を抱えながら笑う受付嬢さん。その様子を見て、
「やるか」
「やろう」
「うわっぷ! あ、やりましたわね! でもよく見てみなさい。元から血で汚れに汚れきったわたくしの体にお茶などかけたところで効果など無──あだっ!」
「ゴキブリ。それも貸して」
「殺すなよ」
「分かんない」
「ごふ」
咄嗟に頭部を守ったアイラ。そのがら空きとなった脇腹に湯呑みは突き刺さった。
「あなたたち。強いじゃないの」
「そういえば……なんか神の恩恵とか受けてるんだっけ」
「そう──って言いたいところだけど、もし本当にそうなら、むしろ弱すぎるような気も……いえ、杞憂でしょう。名前が糞で、能力も糞とか、ただの糞ですものね」
なんかまた嫌な予感がするようなことを言われた気がする。今のところ、関わった女神は全員糞なのだが。まさか残りの女神も糞なのか……?
まさかね。
「じゃあアイラ。復旧したら登録をお願い」
「はい。分かりましたわ」
起き上がってカタカタとキーボードを打つ彼女。
「凄えな。文字を打ち込んでEnter押す度にデータが書き換わるのか。まさかこれが……魔法?」
「いえこれは、一種のプログラム言語で魔法とは関係なくむぎゅ」
ミーナがアイラの口を塞いだ。
「ええ、それは魔法よ。ほら、この世界が異世界だということを信じた?」
「ああ。これは手品じゃなさそうだしな。信じる」
「むぎゅむぎゅ……ぷはっ。いえミーナさんこれは魔法ではなく」
「アイラ。早く終わらせないとトイレ掃除ができないわよ」
「そうでしたわ!」
アイラは再び高速でキーボードを打ち始める。そして無事、ゴキブリとゆるふわ痴女の名前は冒険者ギルドに登録されたのである。
「魔法凄いな」
「魔法凄いね」
そして
(注)SQLは魔法の無い某世界においてシステム構築や運用に欠かせないデータベース言語です。
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