Please!Rename!〜異世界で絶望的すぎる名前を与えられたので命名した女神を倒します〜
猫とホウキ
一章 召喚
第1話 ある日ある時、突然に異世界
ある日ある時、突然に。なんの音かは分からないけど、それは聞こえたのである。
『にょんにょんにょんにょん』
そんな音。
耳がおかしくなったのか。俺は首を傾げなから周囲を見渡した。
普通科の高校、ごく普通の教室である。今は休み時間で、生徒たちは雑談をしたり準備をしたり、まったりと時を過ごしている。
『にゃきにゃきにゃきにゃき』
それなのに聞いたこともないような音が教室に響いているのである。どこから聞こえてきているのかも分からない。何故か俺以外の生徒は誰一人として反応しておらず、この上なく不気味である。
『にゅもにゅもにゅもにゅも』
『にゃりんにゃりんにゃりんにゃりん』
『ぴかーるーぴかーるー』
これは、もしかして人の声か?
俺はもう一度教室を見渡すが、やはり音の出所は分からない。
怖くなって、俺は教室から出ようと席を立った。そのとき全身を違和感が覆う。
『にゅっぽーふぉうふぉう』
『にゃるにゃるにゃきにゃき』
『ぴかーるーぴかーるー』
声が大きくなる。頭の中に直接の響いているような感覚である。幻聴か。耳というより頭がおかしくなったのか。
助けを求めようとするが、口が動かない。体全体が重たい。いや、重たいだなんて感想で済むレベルの問題ではない。自重で床にめり込んでしまいそうである。
実際、俺の体は床にめり込み始めていた。しかし下の階に落ちるなんてことはなく、視界がぐにゃりと歪んだ後──俺は見知らぬ場所に放り出されていた。
*****
教室にいたはずである。
俺はその広い部屋をゆっくりと、そして何度も見渡した。
変な音が聞こえて、体が重たくなって、それから床に沈んで……いや、なんだそれは。
記憶も意識も曖昧ではなく、明瞭である。だからこそ怖い。夢であってくれた方が嬉しいということもある。
部屋の様子。現代日本ではあまり見かけることのない雰囲気である。洋風ではあるが、モダンな内装ではない。石の壁。黒ずんだ木の家具。儀式にでも使いそうな装飾の付いた調度品。重々しい、あるいはおどろおどろしい、魔女の部屋と言われても信じてしまいそうな部屋である。
「来たわね」
振り返るとドアが開いており、二人の女性が立っていた。一人は白基調のローブを身につけた髪の長い女性、もう一人は女子高生に見える女性である。
ブレザーと膝出しスカート。セミロングの黒髪。やや童顔。どう見ても日本の女子高生だよね?
「あんたは?」
俺は、話しかけてきた人物──白ローブの金髪女に尋ねる。彼女は言葉には反応せず無言で近寄ってきて、まじまじと俺の顔を眺めた。
ドアがばたんと閉まる。びくりと肩を震わせたのは女子高生だ。
「揃いも揃って平凡な顔立ちね。どうせなら美男美女の方が嬉しいのだけど。ほら、絵になるし」
「よく分からないが、褒められてるんだよな?」
「ええ、褒めています──その感性で正しい。さて、二人揃ったところで説明いたしましょうか。異世界の勇士さん」
異世界という言葉に、俺は首を傾げた。はて、それはどういう意味だ?
女子高生も同じ疑問を抱いたのか、俺と同じように首を傾げている。目が合うと、アイコンタクト。
分かる?
分からない。
だよねー。
「驚くと思うけど、落ち着いて聞いてね。あなたたちは召喚術によりこの世界に招かれました。あなたたちは道理すらも異なる、別の世界にやってきたということです。つまり私から見て、あなたたちは異世界人ということね。もちろん逆もまた然り。分かる?」
「異なる世界。異世界。いまいち意味が分からないな」
「異なる世界。異世界。それ以上の意味は無いわ。外国みたいなものなのかしらね?」
「いや聞かれても分からないし、なんでそんな場所に」
「一つずつ説明するわ。しばらくお黙りください、ね?」
白ローブ女は、棍棒を手でポンと叩く。とても硬そう。
「この世界は数多の女神たちにより支えられています。あなたたちが召喚されたのも、運命の女神の意思に従ってのことです」
「運命の女神?」
「ええ。あなたたちは、おそらく重大な運命を背負い、この世界に呼び出されました」
「重大な運命?」
「とりあえず話を聞き終えてから質問して欲しいわね……。ええ、運命。それは私たちにもまだ分からないものよ。悪しき
また疑問が思いつくがそれは口にせず、続きを促す。
「ありがとう。他にも様々な女神の見識により、召喚対象者の決定は行われました。たとえば真理の女神は、あなたたちが元の世界に執着していないことを見抜きました。『異世界に行くことを望んでいた』と言い換えても良いわね」
「いや考えたこともないんだけど」
「あたしもないよ。というか競技会近かったし、その後にして欲しかった。悔い残りますよー」
「…………」
白ローブ女の頬に、つつーっと汗が伝う。
「友達もいなかったはず」
「いたけど」
「いました」
白ローブ女は袖口で汗を拭った。そして何事もなかったかのように話を続ける。
「まあ、そういうことにしておくわね。さて、あなたたちはこの世界において様々な女神の加護を得ることができます。戦の女神、光や闇、火水風土の女神たち、商売の女神、冒険の女神」
「なるほど。なんか凄そうだな」
「そしてとても大事なことだけど、この世界では人の名は神より与えられます。そして名前は絶対に変えることができず、またこれ以外の名前で人を呼んではいけません」
「そうしないとどうなる?」
「ぶっ殺します……じゃなかった。死ぬことになるわ」
もしかしてお前が殺すのか。棍棒はそのための道具なのか。棍棒が頭蓋骨より硬いかどうかなんて、あまり確かめたくはない。この女にはなるべく逆らわない方が賢明だろう。
「まあ、分かった。とりあえず理解した。異世界がどうとかまだ納得はしてないけど、それはまあ考える」
「名前の件は?」
「理解した。というわけで名前がないのは命に関わりそうだから、まずはそれを教えて欲しい」
俺が言うと、白ローブ女はこくりと頷いた。それを見て女子高生も頷く。
「では、命名の神の名において、あなたたちに名を授けます。まずあなた」
白ローブ女は、俺に向かってそれを告げた。
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