24.『【凍テツク旋律】』
なぜ既視感があったのでしょう。
見たことがあったから。
なぜ胸騒ぎが止まらなかったのでしょう。
風穴開けた時の「やべぇやっちまった」って感情が忘れられなかったから。
なんか、急にマウンテンザラタンが大したことないように見えてきた。
だって、一発であんなデカい穴開いてるし。
なんて思ったわけだが、実際のところそうも言えない。
当時の俺は今の半分未満のレベルだったとはいえ、Lv.240程度の本気の剣技を耐えているのだ。
まぁ俺にとっては勝てる相手なのだろう。なんか安心した。
最悪、『白夜』の魔法が通じなくても俺が倒してしまえばいいわけだ。
なんか、S級モンスター以上に俺って規格外なのかもしれない。
自分で言うのはアレだけども。
ちなみに、馬車の中では『白夜』たちが「あーでもないこーでもない」と議論を白熱させている。
まぁ、知らんぷりしとけばいいや。
「とにかく、近付いたら『白夜』様の魔法で様子を伺ってみることにしましょう」
ということで、とにかくやってみようぜ! という結論に至った。元よりそのつもりだったんだけどね。
あまり近付きすぎるのも危険だということで、魔法が届くギリギリの距離をキープ。
実際に近くまで来てみると、やはりとんでもない迫力だ。俺が開けた大穴もとんでもないサイズだ。
ひとつ気付いたことと言えば、マウンテンザラタンの顔は実に小さい。別にスタイルがいいとかそういう話ではなくて、手足や甲羅の大きさと比べて面白いほど小さいのだ。
そうは言っても通常のモンスターと比べれば規格外なことに変わりは無いのだが、「山を背負って歩いている」というよりは「山に顔が生えている」と言った方が正しいかもしれない。
そのアンバランス加減がかえって不気味だったりもするのだが。
俺がそんなことを考えている間に、『白夜』の準備が整ったようだ。
自分の背よりも高い杖を構え、深い呼吸で集中を高めている。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。
やがてその眠たそうな目を開いた『白夜』が、力強く詠唱を始める。
「…………白銀の氷華を纏いし大地よ。我が白蓮の魂魄に応えたまえ」
それに呼応するように、俺たちの身に纏う空気がピリピリと震え出す。
通常、魔法の発動に詠唱はいらない――というと語弊があるが、少なくとも詠唱がいるほど強力な魔法が必要な場面は少ない。
詠唱が必要というのは、それだけで段違いな魔法である証拠なのだ。
それにしても……当たり前だが、魔法の詠唱ではスラスラと喋るんだな。普段からこれくらい流暢に喋ってくれればいいのに。
「命が奏でる調べよ、我らを包め。悠久の中で針と成せ。生きた証を刻み込め。美しくも儚い刹那の夢を魅よ――【凍テツク旋律】」
途端、一帯がまるで永久凍土に閉ざされたような錯覚に陥る。
全ての熱は奪われ、地面には綺麗な氷の華が咲いている。
突如として降り出した吹雪が、猛烈な勢いで俺たちの体を叩き始めた。
これ、まずくね? 俺たちってもしかして死ぬの?
「――凄い」
と、A級パーティのノアが声を上げる。よかった、氷像になってなくて。
「レベルが違う……」
「こんな魔法が存在したなんて……」
「これが、S級――」
「本当に凄いな」
パーティメンバーたちも無事なようだ。
よく見ると、マウンテンザラタンの周辺だけこの場の数倍の勢いで吹雪が叩きつけている。
怒れる大自然という暴力に勝てず、マウンテンザラタンは完全に氷漬けになっている。
やがて雲が晴れると氷華も消え、動かぬ氷山となったマウンテンザラタンだけがその場に残ったのだった。
「さすがです、『白夜』様。よもや、一撃でマウンテンザラタンを葬ってしまうとは」
「……まだ終わってない」
終わってない? まだ生きているという意味だろうか。
即死してなくても、こんな魔法を食らったら生命活動停止まで秒読みだろう。
それにしても、凄い魔法を見せてもらった。
魔法使いの比較対象がE級であるアリアとクォーツしかいないのがアレだが、言葉通り次元が違った。
S級というのは本当に化け物だ。
俺ばかりが特別ではないということを、改めて分からされたよ。
「……だから、終わってない。――【咲け】」
杖を構えたまま『白夜』が一言呟くと、マウンテンザラタンの身に纏う氷が無数の巨大な刃となって突き刺した。
それと同時に吹き出した大量の赤い血液が、ついにマウンテンザラタンの命を奪った証明だった。
ほんの少し前までマウンテンザラタンがいた場所には、超巨大なトゲトゲ氷のアートが出来上がっていたのだ。
「――」
これにはA級パーティ『晴天の夜空』もぽかーんと口を開けている。俺も開いてたかもしれない。
あの大きさのモンスターを氷漬けにするだけでもとんでもないのに、確実に息の根を止めるトドメの一撃まで持っているとは。
理解した。魔法使いの頂点に君臨するのは、間違いなくこのジト目黒髪少女だ。
「…………終わり」
呆気に取られていた俺たちを、ぶっきらぼうな一声が正気に引き戻す。
表情も声色も変えず、当たり前のようにこの規模の魔法を行使する。
恐ろしくも頼もしい少女だと、その時初めて理解した。
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