2.『追放の代償』

 朝だ。

 二年間、信頼し合ってたと思ってたパーティメンバーにあっさり捨てられ、本来であれば最悪の気分で目覚める朝。


 いや、気分は最悪だ。それは当然だ。

 それはそれとして、


「なんで俺こんなに体の調子いいの……?」


 目が覚めた瞬間からありえないほどに体が軽い。

 気分も最悪、前日はヤケ酒。

 体調が優れる要素なんてひとつもないはずなのだが。


「えっと、とりあえず――ここどこだっけ。確か酒場で呑んで、その後は……」


 考えていても始まらないので、外に出てみることにする。

 それにしても薄汚れた部屋だ。どこかの安い宿だろうか。――あいつらは今頃それなりの宿でそれなりの飯を食ってるんだろうなぁ。


 そう思うと無性に腹が立ってきた。

 あぁ、一瞬でもあんなパーティに未練がましくしがみつこうとした自分にも腹が立つ。


 なんで俺があんなことを言われなきゃ――、


 ベキィッ!!

 八つ当たり気味にドアを開けてしまったが、それにしたってやり過ぎなくらい凄い音をたてて、ドアは爆発四散した。


「えっ!? なんだ!? これ俺悪くないよな!? ドアが腐ってたんだな、きっと! これだから安い宿は!」


 明らかに腐ったドアの吹き飛び方とは思えない元気の良さだったが、心当たりもないので無理矢理納得する。


 ――と、どこからともなく音が聞こえた。


『レベルアップしました』


「はっ?」


 なになに? 今のドアってモンスターだったの?

 図らずも討伐に成功して、レベルが上がったとか?

 ドアが元気よくバラバラに吹き飛んだのは、命を賭した悪あがきだったのか?

 だって俺何もしてないし、それくらいしか考えられないんだが。


『レベル196になりました。おめでとうございます』


「は――はぁぁぁああああ!?」


 世界が壊れちまったか!?

 いや、俺の耳と頭がおかしくなったと考える方が自然か!?


 レベル196!? 俺のレベルは12だったはずだ!

 A級冒険者でやっと60、世界に数人しかいないと言われているS級冒険者ですら90程度だと聞いたぞ!?


 レベル196なんて、存在するわけがない!

 もし仮に存在したとして、俺であるはずもないし、心当たりもない……ん?


「――っ、そういえば、昨日天の声が何か言ってたような……」


 割れるような頭痛の中、確かに何かを言ってはいたが、なんだったかな……見てみるのが早いか。


「ステータス!」


『ステータスを表示します』


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ヒスイ Lv.196

 E級冒険者


 【スキル】

 万物の慈悲を賜う者


 【パッシブスキル】

 大地からの恵み

 レベル感知

 レベル可視化

             ▶︎

ーーーーーーーーーーーーーーー


「なんだ、これ……」


 そこには見覚えのないスキルがいくつも並んでいたのだ。

 ざっと確認してみたところ、とんでもない性能だと言うことがわかった。


 まず、スキル【万物の慈悲を賜う者】。

 このスキルは【レベル分配】の上位互換になっている。

 今まで通りレベルの分配が出来るほか、状況に応じてスキルを獲得してくれるらしい。

 好きなスキルが好きな時になんでも手に入るというものではなく、『レベル』に関連するスキルが必要になったタイミングで獲得できるようだ。


 そして、進化の依代になった者は、自力でレベルが上がらなくなるらしい。

 つまり、


「あのパーティ、これから何万体モンスターを倒してもレベルが上がらないのかよ……」


 ということだ。

 少し可哀想な気もするが、まぁ俺の知ったところではない。


 そんでもって、俺のレベルがとんでもない事になっている犯人はパッシブスキル【大地からの恵み】だ。

 木や土、空気や太陽。その辺に転がっている石ころにいたるまで、ありとあらゆる物から少しずつ経験値を吸収するというものだ。


 まぁ簡単に言うと、息をするだけでレベルが上がるといったところかな。



 まとめると、このスキルの構造はこうだ。


 まず、パーティメンバーを依代にスキルが覚醒する。

 依代になったパーティメンバーは自力でレベルが上がらなくなるが、代わりにスキルの保持者が規格外のレベルになる。


 そのレベルを【レベル分配】で仲間と共有することで、パーティ丸ごと最強になれる。


 なるほど、仲間と心から想い合ってないと使いこなせない、実に性格の悪いスキルだ。

 スキル保持者を信じて依代になったのに、いざ覚醒したら「お前らのことなんて知りませ〜ん」とでも言われてみろ。

 依代となったパーティメンバーの冒険者生命はほぼ終わりだ。


「まぁ、俺の場合は順序が逆だけど……」


 一方的に追放した代償が『一生レベルが上がらない』って、あいつらも気の毒だよ全く。


 今までせっせとレベルを運んできた働き蟻。

 そんな見下していた相手に搾取される側になるとは、皮肉なものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る