ケモナーの新スキル!

「着いたよ! ここにおすすめのスキルがあるんだ! あ、そうだ、武器は私が預かっとくよ! このクエストの仕様で武器があると参加できないからね!」


そうゲスな顔で言うフロスを、アリスは一切疑わずに武器を預ける。


「それじゃ行ってくる!」


「いってらっしゃい!」


アリスを送り出したフロスの表情は大層清々しそうだったらしい。


およそ一時間後、アリスは帰ってきた。こちらを睨みつけながら。


「アリスおかえり! どうだったー?」


フロスはそんなアリスにいやらしい笑みを浮かべ嫌味ったらしく聞く。


「何がいいクエストよ……騙したでしょ!?」


「いいからいいから! おじいさんのポールダンスどうだった?」


そう、彼女がアリスを連れてきたのはあの因縁深い小屋だったのだ。自分と同じ地獄を味合わせようとアリスをこの場に連れてきた。はっきり言おう、フロスは性格が悪い。


「おじいさんのポールダンス? なに言ってるの? 私が言ってるのはウルフに集団リンチされた挙句に貰ったスキルがこれだったこと!」


そう言ってアリスは一つのスキルを見せてくる。


【疑心暗鬼】

得られる経験値が1.2倍になる。


「え、なにこれ……私こんなスキル取ってないよ? ほら」


スキルの相違を確認するためアリスに【鉄壁】を見せつける。


「ほら、私が取ったのはこっち。そんなスキル取れなかったよ?」


「ほんと? あ……もしかしてあのモンスターからのリンチで一定以上のHPが残ってたらそっちのスキルが貰えるんじゃないの? 私あの中でHP1にされては回復を繰り返されたし。あれ? それなら……どうやってあの攻撃掻い潜ったの?」


「あー……多分これかも。この【モフリスト】ってやつ。獣系統にダメージ与えられない代わりに無効化するんだよね」


自分のステータス欄から称号【モフリスト】を引っ張り出しアリスに見せる。


「何これ、このクエストの完全適正じゃん。ズルくない?」


「いやそれがそうでもないんだよ、その結果あの呪いかけられたっぽいし。想像できる? 目に入る物が全部セクシーな格好でポールダンスしてるんだよ?」


「あはは……それはちょっと嫌かも……って待って? フロスは同じことを私にも体験させようとしたってこと? それって酷くないかな?」


アリスはフロスの思惑に気がつき、フロスを問い詰める。


「あ、いや……その……そんなことないよ?」


「嘘! 絶対そうじゃん!」


「ぐっ……」


ぐうの音も出ないとはこのことである。そこでフロスの頭には一つの言葉が駆け巡った。この状況を打開する言葉だ。


「ねえアリス、人の失敗は許すより忘れよ?」


「何綺麗に締めようとしてるの? ていうか今認めたよね!?」


「アリス……忘れよ?」


「はあ……もういいわよ」


「さっすがアリス! 優しいね!」


フロスはすぐさまアリスに抱きつく。


「【ダブルスラッシュ!】はい! これでチャラね!」


そんなフロスにアリスはすかさず【ダブルスラッシュ】をかました。


「急に何すんの!? って結構ダメージ入ってるし……大体280ダメージ……やっぱ納得いかない! しばらくスキルポイント全部INTに振ってやる! 後あの疑心暗鬼っていうの取っとこうかな。ごめんちょっと待ってて!」


「あ、ちょっと!」


取得経験値1.2倍、これが思いのほか魅力的に見えて……というよりはモフモフと触れ合いたくて小屋の中へ入っていく。


「たのもー!」


最初と同じく元気に小屋の扉を開けるフロス。


「おお、主か、何のようじゃ? ……いや、聞くのは野暮だったのお……そうじゃよ、お主に呪いをかけたのはワシじゃ。人を簡単に信じちゃいけぬということが分かったじゃろ?」


『スキル【疑心暗鬼】を取得しました』


ジジイが語り、スキルを取得する。フロスは察した。もうあのモフモフとは触れ合えないと。


「もう何もないぞい。そこの扉から出ていくといい」


絶望した表情で立ち尽くすフロスを目にも留めずに入口を指さすご老人。


フロスは無表情のまま小屋を出て行った。


「あ、フロス。どうだったスキルゲットできた?」

「うん、もらえたよ……でも凄い萎えた。もう時間も遅いし今日は落ちよう」


「どうしたのさ……何があったの?」


「何でおじいさんの語りを聞いてスキルゲットして小屋追い出されるの!? あのモフモフ達とはもう会えないの……?」


フロスは実に簡潔かつ丁寧に先程あったことをまとめる。


「あー……そゆことね、どんまい……」


無表情で下を見ているフロスにアリスができることは何もなかった……


「それじゃアリス、また明日ね? おやすみ」


「うん、おやすみ!」


そのまま落ちてくフロスをアリスは元気よく見送る。


「……もう少しレベル上げよ」


アリスはもう少しだけやっていくことにした。



「おはよー……」


「おはよう! あれ、かなで珍しく遅いじゃん。というかすごく眠そうだよ?」


朝教室に入るとかなではすぐに大きな欠伸を一つ。その珍しい様子にかすみは少し不思議に思う。


「いやー……昨日夜更かししすぎちゃってさ……」


どうやら夜遅くまでゲームをしていたらしい。


「そんなんだと授業中寝ることになるよ?」


「それはかすみにだけは言われたくないな!? それに私はどんなに眠くても授業中は絶対に寝ないの」


そう、普段授業中に寝ているのはむしろかすみの方である。故に彼女の言葉はかなでには響かない。


「私はいいの! ちゃんとテストで点取れてるんだから!」


「本当に謎なんだよね……なんでテストはしっかり取ってるのか。勉強出来なさそうな顔してるのに」


「なんか今日すごい毒舌じゃない?」


いつもと様子が違うかなでかすみは心配になる。


「んー? そお? もしかすると眠いからかも……少し寝かせて……」


そういうとかなでは座っているかすみの足元に座り込み、太ももを枕に可愛い寝息を立てる。かすみはその頭を優しく撫でた。


「可愛い……けどさ、私の負担考えないの!?」


しかし彼女はすでに夢の世界。かすみの声は届かない。


「どんだけ眠かったのよ……まあ少しくらいいっか。私も寝ようかな」


始業のチャイムがなるまでまだ少し時間がある。かすみも机に突っ伏して寝ることにした。


この写真が撮られて後々コアラセットといじられるのはまた別の話。

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