ケモナーのレベリング(?)

「あ、ミーナさん!」


数日経ったある日、フロスはとある悩みを解決するためにミーナの元へ訪れていた。


「フロスちゃん、どうしたの? 急に相談したいなんて」

「実は……レベルが上がらないんです!」

「レベルが上がらないって……バグか何かかしら? 運営に問い合わせてみたら?」

「そうじゃなくて……出てくる魔物がみんなモフモフだから倒せないんです!」


フロスは必死にミーナに対して説明する。いかにモフモフを攻撃することが苦しいか、その葛藤を。


「あー……なるほどね、そういうことなら狩場を変えればいいんじゃない? ほら、アンデッドとかなら倒せるでしょ? あの森のもうちょっと深いところにいるから……一回行ってみればいいんじゃない?」


幸い彼女は幽霊などに対して苦手意識はない。獣じゃないのならおそらく最適な狩場となるだろう。


「ありがとうございます!」

「あ、ちょっと……」


フロスはミーナに一言礼を告げて早速アンデッドが出没するという狩場に向かった。レベリング欲求があった彼女はミーナが最後に言おうとした言葉を聞かずに飛び出していってしまった。



「もおおおおお!!! ミーナさんの嘘つき!! なんでこうなるのよ! 何がアンデッドよ! ミーナさんのばかーっ!!」


遡ること十分前、フロスはミーナに言われたアンデッドの狩場に向かっていた。


「この辺りかなー?」


フロスは呑気に森を歩いていた。アンデッドならば狩ることに抵抗はないと、そう考えていたのだ。


「ぅえあああぁ」


たしかにアンデッドの区域らしい。しっかりと人型のアンデッドゾンビが出てきた。


「おー! ちゃんとゾンビだ、これなら私も倒せる!」


フロスは初めて敵を倒せることに感激しつつ先程ここに来る前に店で覚えた【アンファイア】を放つ。


「ボエー!」

「【アンファイア】」


叫んでいるゾンビに対して再度魔法を放った。慈悲のかけらもない。


「よっし! この調子でやる……ぞ……」


ここなら幾らでもレベルを上げられる、魔物を倒せる、そう考えていた彼女の思考は、目の前に現れた一匹の魔物によって容易に打ち砕かれた。


「グルル……」

「モフモフの……アンデッド……! あ……あ……だめ!やっぱり倒せない! さあおいで! 私の愛で包み込んであげるから……!」


相手は獣ではなくアンデッド。当然ダメージもあるだろう。それでも彼女は逃げなかった。否、逃げられなかった。すでに彼女の思考はモフモフによって支配されていたのだ。


「これはこれで新感覚……!」


しかし彼女は知ることとなる。アンデッドはどこまで行ってもアンデッドであるということを……


「ガウッ!」

「おいで!」


ウルフゾンビに噛みつかれフロスはダメージを受ける。やはりカテゴリーは獣ではないみたいだ。


「っ!例えシステムが貴方を獣だと認めなくても……! 私は貴方を獣だと認めるわ! 獣を獣たらせるのは……世界なんかじゃない、定義なんかじゃない……! 人が獣を想う気持ちよ!」


彼女は包み込む。彼女の無限の愛が、今彼女を襲っているウルフゾンビに向けられた……刹那、彼女は硬直し、そして理解した。崩れたのだ。彼女が触れたところから。


(っ……! 辛かったよね……苦しかったよね……強く……生きて……! ごめん、私には無理……!)


彼女は何も言わず心の中で謝りウルフゾンビに背を向けてその場を立ち去ろうとした。


「ワウッ!」


しかしそんな彼女の背中にウルフゾンビが噛み付く。ただの敵対行動のはずのその行為が……彼女にとっては悲痛なSOSに聞こえてしまう。


※全て彼女の妄想です


「そう……よね、私ったら何をしようと……ごめんね、貴方を見捨てようとしてた……崩れた体を見て現実から逃げてた……声も出さずに心の中で、強く生きてって……馬鹿みたい! 獣を殺さない縛り? ふざけるな! 好きだからこそ……! 好きだからこそ助ける為に殺さなければならない時もある! それこそがケモナーの宿願! ケモナーの使命! ありがとね……大事なことに気づかせてくれて……せめて安らかに【スリープ】」


フロスはウルフゾンビにスリープをかける。何度もいうが全て彼女の妄想である。


『黄泉の道 皆辿り着くと 知りはすれ けふ我が日とは 思わざるなり』


突然フロスは自分の頭に声が響いてきた……気がした。


「え……? 何!? 誰なの!?」


『辞世の句だ……其方そのほうには感謝する……一思いにやってくれ』


「うん……【アンクリスタル】……最期は美しく散ってね」


ウルフゾンビは消えた。美しい氷像になり、そして砕けダイヤモンドダストを降らせながら。


「ありがとう……私、大事なことを学んだよ」


フロスはそらに手を掲げ、礼を言いウルフゾンビの冥福を祈った。何度も言うが彼女とウルフゾンビのやりとりは全て彼女の妄想である。


『レベルが7になりました』


「あ、レベル上がった、さてと……一旦戻ろうかな。辞世の句をあの子の仲間に伝えてあげないと! ……でも仲間ってどこだろ? ……いや違うわ、私が仲間だと思ったらそれは仲間なの! 会った獣全てに伝えればいいだけじゃない! 頑張るのよ、私!」


そう決意し、意気揚々と戻ろうとしたその時、事件は起こった。

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