【現在改稿中】親友からの手紙

鈴木茉由

第1章 手紙

1


 バイクの音。

 私は下に降りてポストの中を覗いた。沢山のチラシや広告に混ざって一通の手紙が入っていた。差出人の名前はない。恐る恐る開けてみると中には手紙と小さなチケットが入っていた。


「親愛なるあなたへ

あなたはもう私のことを忘れてしまったでしょうか。でも私は一生あなたのことを忘れたりしませんよ。今回は久しぶりにゆっくりお話がしたく招待状を書かせていただきました。お時間があるようでしたら是非同封されてあるチケットを持ってロストヴィレッジまでお越し下さい。今回は他のお客様も入れたパーティーを予定しております。

来訪を心よりお待ちしております。

                               あなたの親友より」


 同封されてあるチケットを確認すると、確かに私の名前が書かれてあった。

 日にちは来月の13日。私はカレンダーを来月のページにして13のところを確認した。予定はなく13の枠は綺麗だった。


「コンコン」


 誰かがやって来た。私は一旦チケットと手紙を机の上に置き、身支度を整えて客人を招き入れた。

 確か依頼人の名前は三井洋子さん。とても綺麗な方で思わず私は見惚れてしまった。彼女は衣服についたゴミなどを一度綺麗に払い落としてから中に入った。一つ一つの動きが美しく自分もこんな女性になれたらいいなとさえ思ってしまった。


「お忙しい中申し訳ございません。あなたみたいな名探偵に御依頼するようなものではないのかもしれませんが、この手紙の差出人を突き止めてはもらえませんでしょうか?」


 最初こそ名探偵と呼ばれて少しばかり浮かれた気分になっていたが、手紙を受け取り、内容を確認すると私の背筋は氷ついた。その手紙の内容は今朝私のところに届いた差出人不明の手紙と同じだった。こんなすぐ同じ手紙をもらった人と出くわすものだろうか。私は考えると間もなくその依頼を引き受けた。こうなれば行ってみるしかない。


「実は私のところにも同じ手紙が今朝届いたんです。ちょうど差出人を探そうとしていたところでしたのでご依頼引き受けます。探すとなるとこのパーティーに出席するというのが妥当でしょう。そうなると、他の出席者にあなたが私の依頼人であることを伏せる必要性があります。ですので会場では極力バラバラで行動しないといけないことになりますが、よろしいでしょうか?」


 彼女が軽く頷いたのが見えた。


「では来月の13日またお会いしましょう。」


 彼女はそのまま一礼をして外に出て行った。予想もしていなかった展開になってしまった。他にはもう依頼人の予定もないので私は部屋着に戻りまた謎の手紙を手にした。もしかしてヒントでも書いてあるのでは無いかと思い手紙の裏をチェックしてみたが案の定何も書かれていなかった。差出人が誰なのかと考えにふけっていたがやがて自分にイライラしてきて気づいたら部屋中歩き回っていた。何をやっているんだと自分に言い聞かせながらリフレッシュするため近くの喫茶店まで歩いた。

 店に入ると、何人もの客がいた。私はいつものカプチーノを注文し、いつもの窓際の席に座り、外の景色を見ながらコーヒーを堪能した。


 コーヒーを飲んでいる時もあの手紙のことは忘れられなかった。


2


 行くと決めたからには行くしかない。正直洋子さんが訪ねてこなかったらパーティーにはいかなかっただろう。手紙を破り捨てて葬り去っていたかもしれない。しかし、依頼を引き受けてしまった以上今更引き下がるわけにはいかない。


 今日は探偵事務所も定休日だ。定休日ぐらいは事件のことから離れて自分の時間を堪能しようと決めている。今まであの謎の手紙の正体を探るために色々な情報を洗ってみたが、結局正体を突き止めるまでには至らなかった。正体がわからない分、恐怖も倍増していた。今日の定休日こそ手紙のことは忘れてゆっくりしよう。そう思っていた。


 しかし、次の瞬間私は下に何かが落ちていることに気づいた。紙だ。ただの紙かと思い机に置こうとした時、裏に何かが書かれてあるのに気がついた。

数字だった。


「11514161254504235251934404328513」


 この不気味な数字を見た瞬間私の恐怖心は倍増した。

 私は探偵だが、大きな仕事は受けたことがない。小さな依頼を確実にこなし実績や評判をあげていくそれが私の仕事スタイルだった。そんな私にとってこの仕事は少し大きすぎたのかもしれない。もうすでにこの段階で薄々勘づいていたのかもしれない。この後起きる惨劇のことを。

 何が書いてあるのかはわからなかったが、例の手紙に関係しているかもしれないと思い一度手紙が入っている袋と同じ場所に入れておいた。


 結局、あの日以来私の頭からあの手紙の存在が消えることはなかった。



 何もわからないままとうとうパーティーの日になってしまった。

 13日の金曜日。縁起の悪い数字。朝から嫌な予感しかしなかった。

 私は静寂に包まれた駅のプラットホームに一人突っ立っていた。やがて列車がやってきて私は乗り込んだ。座席はもちろん窓側の席。外の景色を見ながらの旅はすごく気持ちがいい。私は外の景色を眺めながら優雅な朝食をとった。朝食の後はひたすら数字と向きあった。


「11514161254504235251934404328513」


 どこかで見たことがある。しかしどこで見たかまでは思い出せなかった。

 数字と悪戦苦闘しているうちに列車はどんどん街を離れていった。


「ロストヴィレッジー!ロストヴィレッジー!」


 車内アナウンスの声が聞こえて降りる準備をした。列車が駅に着くと私以外に2、3人降りた人がいた。同じ目的地に向かっているのだろうか。森の中を少し歩いていくと橋の向こうに何か建っていたのがみえた。橋のたもとには壊れかかった古い看板が立っていた。

そこには薄気味悪い字で、


「ようこそ!ロストヴィレッジへ」


と書かれていた。


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