なんで来るんだよ!

「あのですね先輩。まず好意を伝えてきた人がいたとするじゃないですか。」

「はい。」

「先輩は、その人をぞんざいに扱うんですか?」

「いや、まぁ、その、そーいうことじゃないって言うか。なんというか…」


そもそもなんでこんなことになったんだよ!沙姫!なんでOKしたんだよ!気まずすぎる。


「煮え切らないですね。なんですか?どうして誘わないという決断に至るんですか。」

「いや、だから、それはな…」


言っていいんだろうか、俺がそもそも詩麻に興味が無いからと…伝えていいのだろうか。絶対傷つくのわかってるんだよな。


「なんですか…」


そんなジト目で見ないで下さい。タイプじゃないからです、なんて聞きたくないだろ!


「まぁ、それは、な?俺がそーいう人だって事だ。な?」

「ん〜、分かりません。どーいう人なんですか。」


あ、めんどくさいやつだ。


「いや、な、いいのか?言うぞ?泣いても知らないぞ。」

「泣くわけないじゃないですか。何言おうとしてるんですか?」

「ん〜まぁ、言うぞ?」


こうなったら腹を括るしかないな。


「実は、詩麻は俺のた…」

「おぉ。裕太と詩麻じゃん。ここにいたのか。」


この声は知ってるけどさ、なんで今なの?なんで今なんだよ!なんでだよ!おい!絢香ぁぁぁ!


「あ、絢香さんじゃないですか!どうしたんですか?」

「いや、私は1人呑みしよっかなって。」

「そうなんですか!どうせなら一緒に呑みましょうよ。」

「いいねぇ。じゃあ同席しよっかな。」


お前は1人呑みしないだろうが!何言ってんだ。しかもなんで俺のとなり?おかしくない?


「で、先輩私がなんですか?」

「あ、いや、やっぱなんでもない。」


もうタイミングが!


「そうですか。なら、絢香さん!絢香さんは自分に好意を伝えてきた人をぞんざいに扱いますか?」

「いや扱わないかな。」


お前は扱うタイプだろーが。


「ですよね〜。」


騙されないでくれ。お願いだから。


「なら先輩。先輩は、先輩が好意を伝えた人からぞんざいに扱われたらどう思います?」

「ん?え〜…俺あんまり経験ないからなぁ。嫌なんじゃない?」

「小学校で習いませんでした?自分がされて嫌なことは人にするなって。」


ならいました。でも、しょーがないですよね?


「恋愛もおなじです。いや、恋愛以外でも、どこでもそうなんです。人にされたら嫌なことはしては行けません。わかりましたか?」

「お、おう。」

「分かればよろしい。」


絢香さん?反対側からニコニコして俺をのぞき込むのやめません?


「裕太は、沙姫がいるもんねぇ。」

「そうだな。他には、要らないって言うか、沙姫に申し訳ないんだよな。」

「まぁ、そうですよね。沙姫ちゃんがいますもんね。ところで、絢香さんは、どこで沙姫ちゃんと知り合ったんですか?」


ギクゥッ、そんな音がするぐらいに俺の首はゆっくりゆっくり絢香の方を向いていた。絢香は俺をちらりと見て、


「ん?沙姫は私の子だよ?」

「………はい?」


なりますよねぇ。てか隠すはずだろうが!


「んん?沙姫ちゃんは、絢香さんの娘?ってことはもし先輩が沙姫ちゃんと結婚したら、絢香さんは、先輩のお義母さん?」

「そ、あともう裕太は、責任取るって言ってくれてるから。ね?裕太?」

「ハイ。ソウデス。」

「えええええ!?先輩結婚するんですか!?」


ああああああああ。絢香のバカ!なんで言うんだよ!


「あ、私はそういえばこの後旦那と用事あるんだった。なんも頼んでないけど帰るね。ばいばーい。」


…あいつ、やってるよな。まじやってるよな。ほんとに何しに来たの?まじで、覚えてろよ。


「先輩、なんで黙ってたんですか?あの時もう既に結婚決まってたんですか?」

「いや、あの時はまだ決まってなかったっていうか。なんというか。その、お試し期間みたいな時だった。」

「そっかぁ、先輩結婚するのかぁ。そっかぁ。」


下を向いたままそうつぶやく詩麻。なんか申し訳ないな。


「言ってなくてごめんな。」

「いえ、許しません。」

「え、あ、えっと、なんて謝れば許してくれるか?」

「ここを奢ってくれないと許しません。」


奢るだけでいいのか。分かった。


「分かった。なら、好きなだけ頼んでいいぞ。」

「わかりました!なら、豚足と軟骨と馬刺しと塩レバーと串の盛り合わせと…」

「まてまてまてまて、どんだけ食うんだ。」

「こうなったらヤケ食いです。先輩も付き合ってくださいね。」


仕方がないな。じゃあヤケ食い付き合ってやるか。


「…でお願いします。」


色々考えている間に詩麻は、注文を終わらせたらしい。


「先輩は、沙姫ちゃんと結婚出来て幸せですか?」

「まぁ、まだ色々あるからな。幸せ!って断言は出来ないけど、今は、幸せかな。」

「なら良かったです。」


少し悔しそうに、でもほっとしたような顔でそう言う詩麻。ほんとに申し訳ないな。


そうこうしていると、次々に運ばれてくる、料理の数々。まてまてまてまてほんとに多いぞ。まだ来るの?え!?


結局数万円分のヤケ食いに付き合って俺の腹は限界を迎えた。


そんなことはどうでもいい。今やばいのは俺の財布だ。今月まだ半分だぞ。出費が多すぎる。


「じゃあ、また今度奢ってくださいね。おやすみなさい。」


そう言って帰っていく詩麻。あれ?なんかおかしくない?奢られる予定が奢った上に、また今度?あらら?損しかしてない気がするのは気の所為?


兎にも角にも、やっと沙姫が待つ家に帰れる。もうクタクタだ。


電車に揺られて最寄り駅に降りる。そして重たいお腹を擦りながら家に帰り着く。


「ただいま。」

「おかえり!ちゅ♡」


『沙姫ちゃんと結婚出来て幸せですか?』


わかんないけど、今は超幸せだ。

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