旅立ちの章 序
装備におかしなところがないか最終確認していく。
両手には、南雲さんから護身用にと渡された愛用の篭手。
身体には皮製の鎧を身につけており、色は篭手に合わせて黒めの赤で塗られ、ベルトなどでいくつかのアイテムを身につけることができるように加工されており、すでにポーションや水筒などのアイテムが付けられている。
また、鎧の色に合わせたウェストポーチも身につけており、肌身離さず持っておく物、お金や貴重品などはそっちに入れて、魔法のアイテムでロックをかけている。
鎧の上には、大き目のフード付き黒色のマントを羽織り、後は、いくつかポケットのついた大き目のスリーウェイバッグ(こっちは食料品や衣服などが入っている)がある。
基本、戦いは格闘戦なのだがそれだと丸腰だと思われ、余計なことに巻き込まれることもあるかもしれないので、小型の槍と腰には小型のナイフを2本携帯している。
まぁ、ある程度使えるものの、あくまで持っているだけといった意味合いが強い。
あ、ナイフは調理や獲物を裁くのに活躍するかもしれないが、槍は、刃先の保護のカバーを取る事はほとんどないんじゃないかとさえ思ってしまう。
まぁ、せいぜい杖代わりに使うぐらいか……。
ともかく、私の荷物はそれで全部だ。
後の荷物は、南雲さんの好意でこっちで預かってくれるらしい。
本当にありがたい。
後は、イセリナから譲られたクレラットが一匹。今は肩に乗ってじっと私を見ている。
すごくかわいいが、頭がすごくいい。
私の言っている事がわかるようだ。
名前は、ニー。
そう、ニーニャから名前の一部をもらった。
彼女の事を忘れないため、それぐらいはしてもいいと思ったからだ。
これで私の準備は出来た。
「準備整いました」
私がそう言うと、南雲さんが私に握手を求めてくる。
私は手を差し出し握手をする。
「元気でいろよ。困った時は、頼っていいからな」
「はい。ありがとうございます」
それを皮切りに順にさよならの挨拶が進む。
イセリナはいない。
彼女なら、多分見送りには来ないだろうと思っていたから、予想通りだったなと思うだけだった。
ただ、残念なのは、ミルファさんがいない事だ。
「えっと…ミルファさんは?」
そう聞くと誰もが黙ってしまう。
どうしたんだろう…。
そう思っていたら、近くの町まで送ってくれるという人の馬車が到着した。
さて、乗り込むか。
そう思って荷物を手にとって馬車に載せようとしたら、馬車野中から手が伸びてきて荷物を中に入れるのを手伝ってくれる。
「あ、ありがとうご……」
手伝ってくれている相手を見てそう言いかけて、私の動きは止まった。
「えっ、ミルファ……さん?!」
荷物を抱え上げた人、それは旅支度をしたミルファさんだった。
「えっと、これは……どういう……」
きょろきょろと周りを見回すと、見送りに来てくれた人たち全員が私と視線を合わそうとしない。
そんな私に、微笑みながらミルファさんが宣言する。
「私も一緒に行くからね」
「ええーっ。それはどういうこと?!」
私の疑問に誰も答えない。
それどころか、笑いをこらえている人さえもいる。
どうやら最初からミルファさんが一緒にいく事は決定済みってことらしかった。
知らないのは。本人のみ。
つまり、全員グルだったと言う事だ。
「そんなの聞いてないわよぉぉぉっ」
私はそう叫ぶ。
だってそれしか出来ないんだもの。
こうして、ミルファさんと私とニーの異世界放浪の旅が始まったのだった。
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