鬼姫異世界放浪記
アシッド・レイン(酸性雨)
異世界召喚の章 序
私の名前は、霧島秋穂。
年齢は24歳のOLなんてやっている。
元々は祖父に武道なんて習ってた関係もあり、身体を動かすことが大好きなアウトドア派なんだけど、妹に誘われて遊んだバーチャルネットゲームにハマリまくってしまって、今では1日1回はインしてしまうネットゲーマーへと転向。
もっとも、身体を動かすのは大好きなのでゲームにインする以外はスポーツやったり、外で動きまくってますが。
最近の悩みとして、思ったことをずけずけいう為か、男が近づかないこと。
学生時代から男がいなかったわけだけど、まぁ気が付くと年齢がクリスマスになっちまってそろそろ結婚なんて考えなくちゃいけないかなぁとか思ってしまうのです。
もっとも、妹にそんなことを話したら、爆笑されて「おねーちゃんが結婚考えてるって」と笑い泣きしやがった。
もちろん、姉としてヘッドロックをかけてしっかりカッチリやさしくネチネチとお説教してあげましたが…。
私だって……乙女だいっ。しくしく。
まぁ、そんなこんなはあるものの、まぁ、普通の人とは少し違うかもしれないけど、それでも普通の人生を送っておりました。
あんなことがあるまでは……。
「さてと……」
私はそう呟くとヘッドセットをかぶり、邪魔になりそうな前髪を少し横に流してバイザーをおろす。
後ろ髪は事前に首元で二つに結んで両肩から前の方に流している。
そろそろ切ろうかな。なんて思いながらも、願掛けみたいな気持ちで高校生の時から伸ばし続けている。
もしかしたら、このままずっと伸ばすことになったらどうしょうなんて思ってしまい、思わずぞっとする。
そんなことを思っていると、バイザーの右端っこのところにすべて問題ないことを示すグリーンのランプが光っており、椅子に深く腰掛けた。
お気に入りの黒の椅子は、背中を預けても音も立てずに私の身体を心地よい反動を返しながら支えている。
女の子の部屋にあるものとしてはデザインは少し地味だが、座ってみた時の反動としっかりしたつくりが気に入って予算オーバーしたものの購入に踏み切った一品である。
やっぱ、いい椅子買って正解だった。少し背筋を伸ばして首を振る。
そういえば妹は用事でインする時間が遅くなるって言ってたな。
このゲームを始めてからはほとんど二人で一緒にプレイしてたからシングルは久しぶりだ。
ちらりとバイザーの上に小さく見える時間をチェックする。
21時ってことはそろそろログインする人が多くなる時間帯だ。
このゲーム、意外と社会人が多い。だからどうしても夜間にインする人が一気に増える傾向にある。
えーっと、今日は約束なかったからインしている友達の誰かに声をかけようかと考えてみる。
いや、いや。たまにはまったく知らない人たちとのプレイもいいかもしれない。
そして一緒にクエストでもして友達になろう。そうだ。今日はそうしょう。
そんなことを思いつつ、私はゆっくりとまぶたを閉じる。
黒い闇が視覚をさえぎり、そしてまぶたを閉じているのにすーっと白いものが頭に浮かぶ。
それは文字で最終確認のメッセージがずらずらと流れていく。
そして、最後に出てきた文字。
>ゲームを始めますか?
その表示に、私はヘッドセットについているマイクに向かって答える。
「イエス」と……。
そして一気に視界が真っ白になる。
私のワクワク感が、テンションが、一気に大きく上がる。
仕事だ、人間関係だでストレスいっぱいの日常よ、さようなら。
さぁ、これからは私の楽しみの時間の始まりだ。
えーっと……これはどういうことなのでしょう?
お気に入りのゲームにログインしたはずなのに、今の私はいつものゲームの格好ではなくただの白い質素な服だけを身にまとってる状態。
そしてなにやら床には複雑な魔方陣らしきものが書き記されており、私はその中央で座り込んでいる。
魔方陣が、只今絶賛効果発動中って感じで光を発していて、その魔法陣の周りでは魔法使いらしい黒いローブをまとってフードをかぶった連中となにやら黒装束をまとった人たちが戦っている。
うーん……。見た感じだとどっちも怪しいんですが……。
まぁ、ともかくここにいたら巻き込まれそうとか思って手を伸ばすと只今絶賛効果発動中という感じで光っている魔方陣の光に手がはじかれる。
あれ?ここから出れないの?
つまり強制イベントってやつでしょうか?
こんなイベントあったっけ?
えーっと、新イベントかな?
そんなことを考えているうちにどうやら決着がついたみたいで魔法陣の周りの戦いが終わる。
黒装束の方が勝ったみたい。
倒れているのはローブをまとった魔法使いらしい人ばかりで、黒装束の方は一人も倒れていない。
まぁ、魔法があまり使えない接近戦みたいな感じだったからなぁ。
魔法使いらしい人達の方は、防具も多分だけど非金属性のものだったろうし、魔法使えないんじゃ勝ち目ないか。
このゲームの設定だとキャラクターの装備に武器や防具の制限はないけど、重たい武器や金属関係の鎧や盾は魔法なんかにかなりのマイナス補正がかかるから、私の友人の魔法使いは軽装でマイナス補正をかなり抑えるようにしている。
まぁ、バリバリの接近戦で戦う魔法使いっていう感じの人もいるが、そういう人は少数派だ。結局、どっちつかずになってしまって苦労することになる。
だからこそ、魔法使いスキルを優先する人は戦士系のスキル持ちの人とバランスを取るためパーティを組むんだけどね。
結局、歪なスキルのほうが長所と短所がはっきりしてて強いってことなんだろう。
だから、私のキャラもそんな感じで振り分けている。
もっとも、一緒にプレイしょうって誘ってくれた人のアドバイスを受けてやったんだけどね。
おかけでそこそこ強いキャラクターになってくれた。
おっと、そんなことを考えていると黒装束の中からリーダーらしき男がゆっくりとこっちに近づいてくる。
マスクのようなもので顔を隠し、兜のような防具をつけているためどんな顔が見れないし、髪型だってわからない。
そんな男が魔法陣の前まで来ると右手をゆっくりとあげて私を指差す。
えっとなんでしょう?
「あ……」
そう言いかけると男はさっと指先を下に向けた。
その動きはまるで指で何かを切り裂くような感じだった。
そして、それが合図だったかのように今まで効果絶賛発揮の光を放っていた魔方陣が一気に消える。
リーダーらしき男は、私のほうをじっと見て声をかけてきた。
「日本語はわかるか?」
低めの声でそう聞かれる。なかなか渋い感じの声だ。
映画なんかだと主役級の人が言っているかのような重みと落ち着きが感じられる。
だがそこで違和感が沸く。
へ?
だってここはゲームの中……。
確か、このゲームは日本でしか稼動してないはず。
だから、外国の人がいる可能性はあまり高くない。
つまり、ほとんどのプレイヤーが日本人なのだ。
なのに、第一声が日本語がわかるかどうかの確認というのは何なのだろうか?
「えっと…それはどういう…」
最後まで言い切らないうちに男は視線を後ろに向けた。
その態度は、私の発する言葉から日本語がわかると判断したらしい。
私は話し終わっていないのに凄く失礼ではないだろうか。
「あのっ!」
少し強めに言ってみる。
しかし、男は私を無視して視線を向けた先にいる黒装束の男達になにやら言葉を発している。
その言葉が、英語でも、中国語でも、もちろん、日本語でもないのは間違いない。
だが何言っているかまったくわからないのだが、何を言っているのかわかってしまう。
私を見ては指を向けて話している事からして間違いなく私に対してのことに間違いない。
日本語が喋れるなら、まずは日本語で現状を説明すべきでしょうが!
なんかムカムカしてくる。
だから思わず大きな声をあげた。
「あのですね!!」
その声にリーダーらしき男以外の黒装束の全員の視線が私に集まり、思わずたじろいでしまう。
「はぁ……」
わざとらしいほどのため息がリーダーらしき男の口から漏れ、やっと視線を私に向ける。
「日本語を話せるのはわかったから少し静かにしてくれないか、お嬢さん」
お嬢さんってところに妙なアクセントをつけて言い返される。
「だ、だって……」
「わかってる。ともかくだ。手早く終わらせるからそこで少し待っててくれや。それくらい出来るだろう、お・じ・ょ・う・さ・ん」
アクセントに含まれる嫌味の成分が上がった。
多分、イライラしたんだろう。顔が見えないがなんとなくだがわかる。
しかし、私だってイライラしてるし、何がなんだかわからずパニック気味なのだ。
それに何より言い方が気に入らない。うちの嫌いな上司のおっさんがこんな言い方してくる。
人の身体は嫌らしい目つきで嘗め回すように見ているくせに、相手を見下し、自分が絶対だと思っていやがる。そんなおっさん特有の言い方だ。
だが、何も判らないしどうしょうもないから質問するしかない。
「えーっと、これってイベントなんですよね?」
抑えてるつもりでも、もう完全に喧嘩売ってるような勢いで聞き返す。
しかし、そんな私の言葉を無視し、リーダーらしき男は私に向かって手を開いて向けるとゆっくりとなにやら言葉を紡いでいく。どうやらなにかしらの呪文のようだ。その流れるような言葉の音からとても強い力が含まれると感じられる。
もっとも、残念ながらゲームの設定でも現実でも魔術関係のスキルなんてものはもっていないし、知識なんてものも知らないので何を言ってるのかなんてのもわからない。
ただ印象的なのは、呪文を呟きながら私を見る目だ。
冷ややかで、まるで人を見ていない目。モノとしてみている目。そんな目だ。
その上、話しかけている私を完全に無視してやっている。
それでますます怒りというわずかな火を大火にするには十分。
完全に嫌いな私の上司のおっさんのイメージと重なる。
喧嘩上等!
武闘派女子を舐めるなっ!!
ちなみに上司のおっさんにもあんまり理不尽なことをチマチマ言ってきたので、みんなの前で一度正論で言い返して無茶苦茶へこましたことがある。
言い終わった後、その場にいた女性陣が一斉に拍手喝采するもんだから、結局上司は何も言えずに黙り込んでしまった。今思えば、よく言ったものだと思う。
クビと言われてもおかしくない状況だったが、あの時はあまりにも上司の方が無茶苦茶だったのと、ほとんどの人に上司が嫌われていいたという事があってお咎めなしとなった。
もっとも、今回の場合はいくら言葉にしても多分無駄だろう。
相手が聞く気がなければどうしょうもないし、味方してくれそうな同僚も仲間もいないのだから。
それにここはゲームの中だ。
少々の無茶をやっても問題ない。そんな考えが頭でまとまる。
ならば…。
私はすーっと身体を少し沈め、パーんと弾けるように前方に駆け出して一気に距離を詰めた。
そんな私の動きにリーダーらしき男の動きと声が止まる。
私が何をするのかわかったのだろう。
慌てて防御の体制にしようとしているが、そんなものは遅いのだ。
小さなころから祖父の影響で空手をやっており、その上私のゲームのクラスは格闘家。
回避と手数とスピード主体のクラスなのだ。
素手で防具をつけていなくてもそこらへんの戦士なんかに負けやしない。
パンっと一発右の拳が腹に入り、相手のガードが反射的に下に落ちる。
その時を狙って左の拳を顔に叩きつける。
拳にずっしりとした感触というか手ごたえが残る。
間違いなく決まった。
しかし、相手は後ろに一歩下がっただけで踏みとどまっている。
現実ならどんなに鍛えた相手でもふらつきを起こしてもおかしくないほどの一撃だったはずだ。
ゲームなら、完全に吹っ飛んでいる。
しかし、相手は私の一撃を耐え、ぎろりと私を見下す。
その目には今までになかった怒りがあった。
その怒りの色にゾクリと背筋に刺激が走り、恐怖を覚え思わず後ろに下がろうとする。
そして、周りに浮かんでいた魔方陣は消えていることに気が付き…まるでスイッチが切れるかのように私の意識はそこで途切れてしまった。
「大丈夫ですか?」
黒尽くめの男の一人が心配そうに聞いてくる。
素手ではあったが、かなりのスピードと打撃音から強烈な一撃だと感じたためだ。
「俺か?それとも彼女の方か?」
イラつくようにリーダーらしき男が言葉を返し、男の方に視線を向ける。
しかし、そんな言葉にも男はつかつかと近づいていく。
「両方です」
苦笑しているのだろう。少し笑いが含まれた声で答えを返しながら。
「はぁ……、すまなかった」
リーダーらしき男は、イライラを吐き出すように大きくため息を吐いて謝罪し自分が支えている意識を刈り取った女性を男に託す。
代わりに女性を支えながら軽い口調で気にしていないことを言って、その後はまるでさっきまでの軽口はなんだったのかと思うくらい暗い声で言葉を続ける。
「しかし、予定が狂いしましたね」
「ああ。すぐ帰す予定だったんだが……。もうゲートは完全に閉まっている。次の予定日はいつごろだ?」
「2週間後になりますね」
その言葉に深いため息をリーダーは吐き出し、腕を組むと顔を上に向けた。
そして、しばしの間が開いて女性の顔の方に視線を向けて再度ため息を吐き出した後、撤収するように指示を出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます