貧乏神が見える男

@aoibunko

少年、男と出会う

 少年は夕暮れの駅前で、花壇のふちに座り、行き交う人々の中に狙いを定めていた。家出してわずかな所持金は底をつき、寝泊まりしていた公園は昨夜の雨で遊具も地面も水浸しになり、仕方なく軒のある店や倉庫で雨宿りしながら一晩中歩き回った。空腹で目が回り、体中が痛い。少年は生きるためには他人のものを奪わねばならないと決意した。知り合いを訪ねて金を借りようとか、万引き、置き引きの類いは思いつかなかった。ただ誰かを殴り倒し、手荷物を奪って逃げるということだけが頭にあった。それ以外のことは思いつかなかった。


 さっきから目の前をちらちらかすめる「もや」がある。手で振り払うと視界から退場するが、すぐにもどってくる。犯罪を計画しつつもやを顔の前から払いながら少年の焦りといらだちはつのる。


 日が傾いてきた。もう一刻の猶予もないと立ち上がり、もやを払うとそいつらはしつこく目の前に戻ってくる。手を振り回し、首を左右に振る少年に声をかけた者がいる。


「なあ坊主、目の前がうっとおしいかい?」

無精髭を生やした大人の男だった。男は言う。

「ちょいと話をしようじゃないか」


 男は少年の顔をのぞきこむ。思わず少年が顔をそむけると、男はろうそくを吹いて消すかのように口をちょっと尖らせてふっと息を吹く。たちまちもやは消えた。


「坊主、お前良からぬことを考えてるだろう」

「……」

「まあ赤の他人のオッサンに打ち明けられる話ではないだろうな。でもあのモヤモヤっとしてたヤツ見えてたんだろ」

「…だからどうした」

「あれが見えるヤツはなかなか珍しいんだよ。オッサンはその珍しいクチでな、坊主も同じかと思ったから声をかけたのさ」

「…もういい。黙れよオッサン」

「さては腹が減ってるな」

少年はそらしていた顔の向きを変え、夕暮れの赤い太陽に照らされた男の顔をまじまじと見る。

「メシ食わしてやるよ。イイコにしてるならうちにも泊めてやる」

男は少年の素性を見透かしたようににやりと笑った。

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