第21話 お久しぶりドラゴン

 シアスタが泣いたあの日から数日。シアスタがリーダーをしてクエストに行きたいと言ってきたので、ここ数日はオレ・ソーエン班と子供組+ロロ班は分かれてクエストに行くようになった。


 色々とレクチャーしたから大丈夫だろう。


 シアスタは周りと話し合い、何が出来るか、何が出来ないか、戦うときはどうすればいいかなど、個人ではなくパーティとして強くなることを目指すようになった。


 ラリルレはオレ達のように、自分のことをこの世界の異物と思っていたので手加減や遠慮はしなくていい、自分のやりたいことをやっていいんだと伝えておいた。異物でもこの世界に居ることには変わりない。そのことを聞いたラリルレは、『私が可愛いを守るよ!!』って息巻いて子供組の引率をするようになった。


 リリムとリリスは基本オレに引っ付いているが、たまにラリルレやシアスタの方に行くようになった。ソーエンには引っ付かないが、基本的にオレとソーエンは一緒にセットでいるので引っ付く必要が無いんだろう。後、オレが色町に行こうとするとどこからともなく現れるので全然行けてない。<隠密>を使ってもばれるので別の手を考えなければ。


 そんな思考を巡らせながら朝食のカレーを作っているとキッチンにロロが入ってきた。


「我は極上のヘドロを所望する」


「カレーな。何皿?あと紅茶もだろ?」


「3皿だ。紅茶も所望する」


 ロロが初めてカレーを食って以来、朝はオレのカレーを食いに来るようになった。


「そう言うと思ってもう用意してある。自分の分は自分で持ってくれ」


 そういうとロロはオレの頭によじ登って頭の上で触手を伸ばしてカレーを持つ。


 <インフィニ・ティー>会議でそれぞれの力を教え合ったときに知ったんだけど、ロロの触手は伸びる。それも結構な長さまで。


「歩くからこぼすなよ」


 ロロを頭に乗せながらテーブルに移動して、カレーを置いてから紅茶を出す。


 オレは椅子に座って、ロロはテーブルに乗って向かい合って席につき、お互いの食事が始まった。


「美味い。美味い」


 ロロは触手でスプーンを持って、カレーを掬い体の下に持って行く動作を繰り返している。


「理解者が増えて嬉しいよ」


 オレとロロがカレーを嗜んでいるとソーエンが階段を降りてきて席につく。ソーエンはカロメは作り置きしてアイテムボックスに入れているので、入れた紅茶を渡すとそのまま朝食に入る。


 この数日間はこれがいつもの朝の風景になりつつある。


 大人組の朝だ。


「なぁロロ、子供組はどうだ?」


「まだまだ未熟だ。我の軍勢の足元にも及ばん」


「比較対象が強すぎるんだけど…」


 なんでコイツは食べながら普通に喋れるんだろう。モゴモゴ動いて咀嚼してるっぽいのに発音が変わることは一切無い。


「ロロ、お前のクエスト中の役割はどうなった」


 ソーエンがロロに質問をする。


 以前の会議のときに、ロロはサポーターの癖に支援が出来ないという役割詐欺が判明したので、早急にクラスを変えるようにと頼んでおいた。


「我は討ち洩らした敵の排除と危機的状況の回避だ」


「立派なサポートになってんじゃん。文句無いわ」


「当然だ。ラリルレが怪我をしたらどうする」


「過保護だな。ラリルレ以外は怪我をしても良いのか?」


「それは試練だ。苦しまずに手に入れられる強さは無い」


 スパルタな発想だけど、子供達の成長を考えてサポートしているんだな。


 危機的状況ってのも命に関わるようなものだけを回避しているのだろう。


「それに怪我をしてもらわんとラリルレの仕事が無くなる」


「そっちが本音だろ」


「どっちも本音だ」


 ロロは表情が無いので本当か嘘かが分からない。


 オレの横では、カロメを食べ終わったソーエンが煙草を吸い始めていた。


「気になっていたのだが、その煙を吐いているのは何だ?」


 ロロが空いている触手でソーエンの煙草を指す。


「煙草だ。知らんのか?」


「知らん」


 昔は無かったのか、それともただ単にロロが知らないだけなのか。


「心を落ち着かせるアイテムだ。吸ってみるか?」


 ソーエンが差し出した煙草をロロは触手を伸ばして受け取る。


 そして体の下に持って行き、ロロが少し膨らむ。吸ってるのか?


 そして縮み始めるとロロの一つ目から煙が出た。


「なんで?どうなってんのお前の体?」


「人間はこれで心が落ち着くのか。ラリルレの方がいい」


 そう言ってロロは煙草をソーエンに返す。


「テラテラしてるんだが」


 ソーエンの受け取った煙草の吸い口は粘液みたいなのが付いていた。


 スプーンにはそんなもの一切ついていないのに。邪心の体は一体どうなっているんだ。


 ソーエンはロロに渡した煙草を消して新しい煙草を出した。オレもカレーを食べ終わったので吸おう。


 オレ達が煙草を吸い、ロロがカレーを食べていると子供組がぞろぞろと階段を降りてきた。


 挨拶を済ませるとラリルレは自分とシアスタの分のサンドイッチをアイテムボックスから出してテーブルに置く。


「紅茶は?」


「くーださい」


「お願いします」


 2人にも紅茶を注いで、双子にMPを吸わせると食堂にはゆっくりとした時間が流れる。


 ここ最近のいつも通りの朝の風景だ。


「お邪魔します」


 玄関の扉が開かれ、それと同時にベルがなった。これはいつもの朝の風景じゃないな。


 でも、朝っぱら家に来るやつなんてあいつしかいない。


「久しぶりじゃんカフス」


 カフスは慣れたもんでいつものテーブルに向かってくる。


「人増えた?」


「そうだな、一気に4人も増えたぞ」


「4人? …ゲゼルギア、なぜここにいる」


 ロロを見たカフスの顔が少し険しくなり、ゆるりと構えを取る。その姿に全然迫力が無い。


 コイツ本当にドラゴンか?


「我の勝手だろ、スノーケア」


「何が目的?あなたがアステルに危害を加えるなら今度は容赦しない」


 カフスが珍しく敵意と言うものを向けている。


 話の見えないシアスタはカフスとロロを見て疑問の顔をしていた。


「あの、もしかしてあなたがカフスさんですか?」


 そしてそんなシアスタを他所に、緊張をした顔のラリルレが席を立ってロロとカフスの間に割り込んだ。


「そう。私がカフス。あなたは?」


「私はラリルレです。キョーちゃんやソーちゃんの仲間です」


「そう、あなたが。敬語は要らない。楽にして」


「…うん。あのね、ロロちゃんは悪い子じゃなくなったの、だからこの町にいさせて、お願い!!」


 ラリルレが頭を下げてお願いをする。


「ロロちゃん?誰?」


「我だ」


「ゲゼルギアがロロちゃん?」


「ちゃんをつけるのをやめろ」


「?」


 訳が分からないから説明をしてくれと、カフスがオレをじと目で見てくる。


「オレよりもラリルレから聞け」


 オレの言葉を聞いて誕生日席にカフスが座る。それに続いてラリルレも元の席に座りなおした。


 誕生日席は双子の為に用意はしてるってのにいっつも座ってくれない。ふよふよ浮いてオレの周りに居つきやがる。


「ゲゼルギアは封印をしていたはず。こんなに小さくもなかった」


「封印……あの、もしかしたら私が封印解いちゃったかも」


 バツの悪そうな悪そうな顔でラリルレが言う。


「すごい。あの封印は結構複雑に作られてたのに」


「洞窟から出るのに邪魔だったから<ディスペル>でぽんとやったら消えたよ?」


 <ディスペル>とは魔法効果を打ち消す魔法だ。


「常識外れ」


 オレ達から見れば逆にこの世界のほとんどが常識はずれだけどな。


「あと大きさだけど、おっきいロロちゃんが割れてちっちゃいロロちゃんになったよ」


 前にもこのことは聞いたけど、邪神の生態は不明すぎる。脱皮みたいなものなのか?


「あれが我の本来の姿だ。今の姿は生きるのに必要なものだけを詰め込んだ、エネルギー効率の良い体だ」


 ますます不明すぎるわ。


 脱皮ですらなく、新しい体を作ったのかロロは。


「だからこんなに力が落ちてるんだ」


 どうやら、今のロロは全盛期の邪神だったころのよりも力が落ちているらしい。


「昔はカフスとロロのどっちが強かったんだ?」


「純粋な力は私、軍としてはゲゼルギア」


「違う。純粋な力も我だ。スノーケアは悪知恵で勝ったに過ぎん」


「私はあなたよりも頭が良くて力も強い」


「我はお前よりも全てにおいて上だ」


 大体互角ってことか。


 カフスがこんなに意地を張る所は初めて見た。


「で、今はどっちが強いんだ?」


「私」


「…」


 ロロが黙って反論しないほど差があるらしい。


「ならロロがここに住んでも問題ないよな?」


 何かあってもカフスやオレ達が対処すれば問題ない。


「大丈夫。元からそのつもり」


「ふぁあ、やったねロロちゃん。カフスちゃんもありがとう!!」


 ラリルレは立ち上がってロロを抱きしめながらカフスにお礼を言う。


 ラリルレが抱きしめたから、またロロがひょうたん型になっている。さっき食ったカレー吐かないだろうな。


「仲がいいんだね。丸くなったねゲゼルギア」


「恩を返しているだけだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る