第14話 嘘も方便

 胴上げが終わり、作戦の終了を伝えるとのことで平和の旗印と絶・漆黒の影は他の地区へ連絡をしに行った。オレ達は疲れただろうから帰っていいと言われ一足先に帰宅するのを許された。マジで疲れてたからありがたい申し出だった。


 家の前まで来ると、もう深夜は過ぎているのに何故か食堂の明かりが点いていた。誰かが消し忘れたのだろうか?


 寝ているシアスタやラリルレを起こすのも悪いので静かにドアを開ける。


「キョーちゃん、ソーちゃん。お帰り」


「お帰りなさい」


 何故か3人は起きていて、2人は食堂の入り口に一番近いテーブルに座っていた。ロロはテーブルに乗っていた。


 シアスタとラリルレはオレ達を笑顔で出迎えてくれる。やっぱ仲間っていいな。


「ただいま、まだ寝てなかったのか」


「今日ね、私達3人でねギルドに登録しにいったの」


 ラリルレが唐突に話し始める。どうやらオレ達とお話がしたくて起きていたらしい。


 オレ達が寝ている間に行ってきたのか。一緒に行きたかったな。


「起こしてくれれば一緒に行ったのに」


「それでね、今日ギルドで男の冒険者が盛り上がってるってローザさんから聞いたんだ」


 うん? なんか雲行きが怪しいぞ。この声のトーン、楽しいときに出すもんじゃない。


「それでね、クエストの内容とか報酬聞いちゃった」


「…わお」


 お話はお話でも、どうやら楽しい話をしたいわけじゃないらしい。


「2人とも正座」


 玄関先で大人2人が年下に正座を命令される。


「待ってくれ違うんだ!!」


「俺は関係」


「正座」


「「…はい」」


 どうしてオレ達は正座をする必要があるのだろう。オレの中に疑問が生まれる。


 でもなぜだろう、このラリルレには逆らうことが出来ない。


 正座したオレ達の前に怒っている二人が立つ。


「そーゆーのはフケツだよ2人とも!! そりゃ男の人だからしょうがないのかも知れないけど。でも、そーゆーのは好きな人同士でやるものなんだよ!!」


 ラリルレがプンスコと怒り出す。


「違うんだ、オレ達は町のためを思ってこのクエストに参加したんだ!!」


「ローザさんから、報酬の話を聞いて喜んで参加した声がギルド中に響いてたって聞きましたけど?」


「……シアスタのおっしゃるとおりです」


 受付さん、なんで教えちゃったんすか。


「嘘つくなんてサイテーです」


「俺は違うぞ。報酬は」


「ラリルレ、コイツも喜んで受けてました」


「イキョウ、お前死にたいのか?」


「逃がすわけねぇだろうがよ!! お前も参加したことには変わりないんだからな!?」


「喧嘩は後にして」


「はい…」


 今日は敗北続きだよ。勝てねぇ、ちっちゃいこ達に勝てねぇよ。


「キョーちゃんはそーゆーお店しょっちゅう行くの?」


「全然行ったことありません。神に誓って」


「たまに行くとか言ってたぞ」


 ソーエンてめぇ、さっきの仕返しか!? でもここでまた喧嘩したらラリルレに怒られるので我慢しよう。今は言い訳を考える方が先決だ。


「また嘘つくんですか?」


「違う、違うぞシアスタ。オレの全然はソーエンのたまにと同じ数なだけであって、そう!!分母が違うんだ。分数は分かるか?ソーエンは1/100がたまにでオレは1/10が全然見たいな所があるからそこの相違でいまの会話はかみ違ったんだよ!!」


 自分で言ってて訳の分からなくなる理論だが、それっぽいことを言ってごまかそう。


「?、??」


 シアスタは混乱している。やった、ギャンブルはオレの勝ちか?


「じゃあ行ったことあるんだ」


 ラリルレは頭がいいなぁ。もっとおバカさんでいて欲しかったよ。


「…はい、そうです」


「フケツだよ!!」


「違うんです。その店に行ったら偶然その女の子に一目ぼれしちゃって恋に落ちたんです。いうなれば純愛です」


「そうなの?」


「はいそうです」


「その後はどうなったの?」


「振られて終わります」


「……そっかぁ……。振られちゃったんだねキョーちゃん。辛かったねぇ。怒ってごめんね」


 ラリルレがオレの頭をよしよししてくれる。何てやさしい仲間なんだ。温かみが頭に染み渡る。頭から温泉に入っているようだ。


「イキョウさん、振られちゃったんですか?」


「そうだよシアスタ。オレは失恋したんだ」


「そう…だったんですか。ごめんなさい」


 シアスタは気まずそうに顔を背ける。


「イキョウ、お前…」


 ソーエンだけがオレを信じられない眼で見る。


 ロロは特に何もせずテーブルの上でこの光景を見ていた。


「いいんだ皆。オレはもう大丈夫だから」


 うやむやにして強制的にこの場を終わらせよう。そして今夜は明日のためにゆっくり寝るんだ。


「こんばんは」「おじゃまします」


 お説教が慰めに変わって、ようやく解放されそうなときに最悪の存在がふよふよと入ってきた。


「な、なな、な」


「あわわわわわ」


 ラリルレとシアスタは顔を真っ赤にしながらその存在を見ている。そりゃあんな格好普通ならそうなるわ。だって最低限しか隠してないんだもん。


「いた」「わたしたちを」「むちゅうにさせた」「おにーさん」「にがさない」「わたしたちの」「ごはん」


「バイノーラルカニバリズム宣言やめろ」


 コイツらなんで家に来てんだよ。どっかに行くんじゃなかったのかよ。


「キョーちゃん、まさかこんなちっちゃい子達に…! 私、どうしたら……うえーん!!」


「ロリコン!!ヘンタイ!!スケベ!! 私のこともそんな眼で見てたんですか!!」


 ラリルレは泣き出し、シアスタは的外れなことで泣きながら怒っている。怒りの涙はセーフだけど、これはこれでめんどくせぇ!!


 ロロなんて、ラリルレが泣いたからとんでもなく血走った目でオレを睨みつけてくる。


「おんなのこをなかせるなんて」「おにーさんつみのなおとこ」


 メスガキ共はクスクス笑い、オレを挑発して来る。


「ちっがーーーーーう!!」


 なんで今日はこんなにめんどくさい日なんだよ!!


 頭を抱えながらオレは床に突っ伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る