第21話 つんつんシアスタ

 ギルドのホールはさっきと違い、職員がちらほらと見受けられた。


 朝礼でもやってたから人が居なかったのかな?


 職員で思い出した。そういえば、あと一人目撃者がいたな。


「おい、そこの受付」


 オレはカウンターに近づいて、最後の目撃者に声を掛ける。


「はっはい!!」


 見てみぬふりをして職務怠慢しやがった受付は、ばつが悪そうに目を逸らしてこちらを見ない。


「オレは怒ってないし、誰からも怒られたくはない。わかるか?」


「私も怒られたくないです」


 目をそらしていた受付は、顔を向きなおすと決意めいた目をオレに向けてくる。


 オレにか?受付さんにか? いや、どっちもか。


「オレもレイラのことを黙っておくから、レイラもさっきの事は受付さんに絶対黙っててくれ、一切口に出すな」


「分かりました、内緒にします。悟られないようにしないとばれますからね」


 レイラも審議師のことは分かっているらしく、オレの言いたい事を理解してくれた。


「ありがとう」


「こちらこそ。でもよかったですね、ローザさんに触さわれて」


「?」


 何を言ってるんだコイツ。


 とりあえずこれでこれでお互いギブ&テイクの関係になれた。


 オレとレイラの共同戦線の話し合いが終わる頃には子供達の説得が終わったらしく、中庭からぞろぞろと子供達が戻ってきていた。


 子供達はオレのことをチラッと見るが、すぐに顔を逸らして関わらないようにしてくれている。どうやらソーエンの言いつけを守ってくれているようだ。


 これで今回のことは受付さんにばれないだろうから、もう安心だ。


 さっさと二人と合流しよう。


「二人ともお疲れ。全て丸く収まったようだな」


 オレはカウンターから二人のほうに移動して、子供達を説得してくれた二人を労う。


「ああ」


「…」


 ソーエンは返事を返してくれるが、シアスタはオレのことを無視する。


「お疲れシアスタ」


「つーん」


「おい」


「つーん」


 その無視の仕方はあからさま過ぎるだろ。


「シアス」


「つーーん」


 イラッ


「つーーーん!!」


「なんでイキョウさんがそれやるんですか」


「つーーーーーん!!」


「なんでですか!!」


「なんで無視するんだよ」


「……スケベ」 


 シアスタが吐き捨てるように顔を背ける。


「ハぁ!?」


 このクソガキに欲情なんてするわけねぇだろうが。生意気言ってんじゃねぇぞ。もっと年を重ねてから出直して来いや。


「つーーーーーーーん!!」


 腹が立ったので今の発言も無視してやろう。


「もういいです!!分かりましたから!!今回は許します!!」


 オレは悪いことをしてないので許すも何もないのだが、これ以上は話がもつれそうなので素直に受け取ろう。オレも今回は許す。


「あれ? ソーエンは?」


 いつの間にかソーエンの姿が無い。あいつ呆れてしれっと消えやがったのか?


「どこに…あっ、ローザさんのところにいますよ」


「本当だ」


 シアスタがカウンターの方を指差したので見てみると、ソーエンと受付さんがなにやら話をしていた。


「そういえば昨日二人を起こす前にローザさんに会ったら、お帰りって言ってくれました。嬉しかったです」


「そっか、それはよかったな」


 あの人もシアスタの姿が見えて安心しただろう。夜のギルドでずっと帰りを待ってたみたいだし。


「すまない、待たせた」


 ソーエンは話が終わったようでこちらへ戻ってくる。


「なに話してたんだソーエン」


「お前がさっき言ってたこと検証してきた」


 魔道具のレジストに関してか。


「結果は?」


「どうやら俺もレジストしているらしい」


「なんの話です?」


 一人だけ話の見えないシアスタが聞いてくる。


 パーティメンバーだしシアスタには事情を説明しておくか。


 審議師の指輪の魔法体系とレジストに関して、オレの考察を交えてシアスタに説明する。


「えぇ…一大事じゃないですかぁ…」


 シアスタは事の重大さを理解して手で頭を抱えている。


「だからオレ達だけの秘密だ」


「言える訳ありませんよ!!」


 手で口を押さえながらシアスタはもごもごして答えていた。頭の次は口とか、忙しい手だな。


「話は変わるが、ローザから言伝を預かってきた。先程イキョウに言うつもりだったらしい」


 あー、強引に取れ戻しちゃったから話し忘れちゃったのか。それは申し訳ないことをした。


「今から30分後、つまり10時半に面会の指名依頼が来たそうだ」


「面会の依頼?」


「ああ、面会するだけで金が貰えるらしい」


 話すだけで金が貰える仕事とか、そんな美味い話があるのか? もしかしてシアスタを狙った悪人からの依頼の可能性もある。


 これは怪しくなってきたぞ。


「相手は誰ですか?」


「訳があってここでは名前を出すことができないらしい」


 ますます怪しい。これは犯罪の香りがぷんぷんしてくる案件だ。叛徒の職業にかけて誓ってもいい。


「だが、ローザ曰く信頼の置ける人物だとか」


 うーん、なら違うかぁ。


 そもそも受付さんが怪しい依頼を持ってくるわけ無いよな。


「30分って言ったって時間なんて分からんぞ」


 この世界に来てからUIの時計は機能していないため、オレ達は正確な時刻が分からず苦労している。


「そこに時計ありますよ?」


 シアスタが指差した先は受付カウンターの上で、そこには結構大きな時計が飾られていた。


 そこにあったのか……全然気づかなかった……。


「12…24時間か」


 時計を見ると、文字盤は地球のそれと変わらなかった。


「当たり前じゃないですか」


 これは翻訳機能による時間の表示を地球のものに変換しているのか、それとも本当に24時間なのかは分からない。ただ、フランスパンの一件があるので深くは考えないことにした。


「あと25分か。朝飯も食ったし、小腹も空いてないからギルドで出来ることはないしなぁ」


「煙草でも吸って考えるか」


「ならアメください」


 その後、昨日と同じベンチで同じ風に煙草を吸った。シアスタは気に入ったのか、昨日と同じく「お揃いです」って言って綺麗なピースをしてオレはまた笑い、上を見上げると空は青くて雲がゆっくり流れている。


 ついつい穏やかな空気に呑まれ、そのまま中庭で時間を潰してしまった。


 でも、とてものどかでいい時間だった。

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