第七話 チームの目的
ブラキオン・ワイバーンを倒した後。少し目立ち過ぎたと言うことで、五人は落ち着いて話せる場所へ移動することにした。
「あんたってやつはほんっとにもう! ワイバーン引っ張ってきた張本人がなんで真っ先に倒されてんのよ!」
「あはは、めんごめんご! 次はちゃんと撒いてくるから!」
「まずぶつからない努力をしなさいよこの暴走特急!」
「まぁまぁ、ラピッドちゃん。二人のレベルも上がったし、結果オーライやから」
「結果オーライだよね!」
「間違ってもシャンディが言うことじゃないからねそれは……!」
そのやり取りを見た魔女リティがぽつりと呟く。
「ラピッドってツッコミ役なんだ……ちょっと意外」
「あはは……ハルルちゃんもシャンデリアちゃんも、結構マイペースだからね。割と振り回されてる感じはあるかな」
魔女集落へ帰還。ラピッド案内の下、第二ツリーの一室へと通された。
シンプルな作りのこの部屋は、アトリエと呼ばれるプレイヤールームである。
木製のテーブルの周りに椅子を並べて、各々座る。魔女リティとクロワッサンが隣同士、テーブルを挟んで三人娘が並んで座る形になった。
「さて――今日顔合わせに来てもらったのは他でもないわ、目的を共有するためよ」
「目的……コラボイベントの上位入賞報酬だったね」
「ええ、そうよ。『魔法少女ユニユニ』シリーズとのね。知ってるでしょ?」
「……それはもちろん。タイトルぐらいは知ってるよ」
「見たことは?」
「……昔、姉が見てたのを少し一緒に見たぐらいかな」
「っっっは、ぁ~~あ。まったく……ユニユニシリーズをほとんど見てないなんて人生八割損してるわね」
魔女リティの発言を受けて、ラピッドが大仰に肩を竦める。その横で、シャンデリアの目がぎらりと光った。
「詳しくないなら教えてあげる。ユニユニシリーズっていうのはね――」
「初代『魔法少女ユニユニ』に端を発する女児向けアニメのロングランシリーズだよ!」
「ちょっと」
「可愛い女の子たちの派手なバトルが人気のアニメ、今年でなんと十周年! それを記念して歴代ユニユニが勢揃いする劇場版の公開も決定してる! わたしは楽しみすぎて今から夜も眠れないよ!!」
「ちょっとこら、シャンデリア! 落ち着きなさい!」
「ごめーん! 説明せずにはいられなかったの!」
「く、詳しいんだね」
「大好きだからね!」
シャンデリアが、魔女リティの呟きに満面の笑みとサムズアップ。
「……こほん。で、このウィッチクラフト・オンラインとのコラボイベントも、その記念イベントの一環ってわけ」
「今のを咳払い一つで流せるんだ……」
「シャンデリアちゃんがこうなるんはしょっちゅうやからな~。リティちゃんも早めに慣れといた方がええよ?」
「ともかく、魔女もののゲームと魔法少女アニメのコラボ……似て非なるものだけど、世界観としては合わせやすかったのかもね」
「ラピッドちゃん、私もユニユニは見てないんだけど」
「八割は言いすぎたわね、ただクロワさんが絡んだとしても半分は譲れない……!」
「どっちみち損は損なんだね……ところで、挑むのはチーム戦でいいんだよね? 他にも個人で挑めるイベントはあったはずだけど」
苦笑した魔女リティがそれとなく話を進めた。
今回のコラボイベント内容は大まかに分けて三つ。
元々のマップ上には存在しない“特殊フィールドの探索”。
多人数で一体の強大な敵に挑む“レイドボスバトル”。
そして最後の一つが、このチームが参加を目論む“チーム対抗バトルロイヤル”。
今回のイベントで唯一、五人一組でのみ参加が可能なイベントであり――その名の通り、最後まで生き残ったチームが優勝という内容だ。
これら三つのイベントはいずれもランキングが設定されており、参加報酬の他、上位に食い込むことでユニユニシリーズに関連した追加報酬が得られる。
「チーム戦に的を絞ったのは、探索やレイド戦で上位報酬を狙うのが極めて難しいからって言うのもあるけど――最大の理由は、チーム戦の上位報酬が一番好きなシリーズに関連してるからよ」
「……なるほど」
それは大事な理由だ、と魔女リティは納得する。
「でも、僕とクロワッサンはまだレベル低いけど、大丈夫?」
「大丈夫でしょ。そりゃ最低限レベルは上げてもらわないといけないけど……今回のイベント、レベル帯で参加ランクが決められてるから」
より多くのプレイヤーに楽しんでもらうための、運営側の配慮だろう。
Lv1~100のプレイヤーが参加できるビギナーランク。
Lv101~200のプレイヤーが参加できるミドルランク。
Lv201~300のプレイヤーが参加できるマスターランク。
以上三つの層に分かれて、プレイヤーはそれぞれの上位報酬を奪い合うことになる。
「あたしたちが参加予定なのはビギナーランクだから、レベル101以上にならないよう気をつけて……って、まぁ流石に十日かそこらで100は越えないと思うけど。どっちかって言うと、それはあたしたちが気をつけるべきことね。特にシャンデリア! あんた90越えてるんだからなおさらよ!」
「はーい、気をつけるね!」
「となると、僕とクロワッサンがやるべきことは……」
「まずはできる限りのレベル上げ。あとは装備の充実と、魔法陣の作成ね。あとはあたしたちとのチーム練習と、作戦を練ることあたりかしら」
ラピッドは一息ついて、今回のミーティングを締めた。
「話すのはこんなところね。今日はひとまず解散して、あとは各自自由行動で」
「ちょいちょい、リティちゃん」
話が終わったと見るや、食い気味に魔女リティに迫ったのはハルルだった。
「ほっぺた触ってもええ? うち、ぷにぷにもちもちの感触に目がないんよ~。柔らかそうやな~ってず~っと思っとってん」
「えっと……うん、まあ触るぐらいならいいけど」
断っても触ってきそうだし……という言葉は飲み込んだ。
「やったぁ! ほな遠慮なく……ふわぁ~ほんとにぷにぷにやん! 適度にあったかいし、あぁ~……これええなぁ……」
「えっ、そんなに? わたしも触る! ……なるほど、これはなかなか……! わたしたちのほっぺとじゃこうも違うか~」
「……んふふ、ラピッドちゃんも気になるんやったら触ってみたらええんに」
「あっ、あたしは別にそんなに気になんないけど。…………まぁ、そこまで言うなら。……っ!?」
「あはは、なんべんも突っついてはる。ラピッドちゃんもお気に召したみたいやね~。あ、先輩も触ってみます?」
「……………………ううん、私は、やめてお、こうかな」
三人娘にひとしきりほっぺをおもちゃにされたのち、魔女リティはクロワッサンとフィールドへ向かった。
「リッちゃん。ちょっとラピッドちゃんたちとの距離が近すぎませんかっ」
「へ?」
フィールドへの道中、クロワッサンが突然そんなことを言いだした。見れば、クロワッサンは若干むくれたような表情を浮かべている。
「あ、あんなに好き勝手ほっぺた触らせたりして」
「え、ゲームの中だし別によくない……?」
「あんまりよろしくはないと思うの、私は」
むむ、と魔女リティは唸った。幼馴染が何に対して不機嫌になっているのか見当がつかなかったからだ。
少々悩んだ末に、箒を止めた魔女リティは自分の顔をクロワッサンに突き出した。
「んっ」
「……えっ?」
「? クロワッサンもほっぺ触りたかったんじゃないの?」
「そ、そういうわけじゃなかった、んだけど……」
しかし幼馴染の許可という大義名分を与えられたクロワッサンの手は、自然と魔女リティの頬に伸びる。
おっかなびっくりといった感じで触れてくるクロワッサンの指に、魔女リティが身をよじった。
「んっ、ふふっ……ちょっとくすぐったいや。もうちょっと力入れてもいいのに……ってあれ? もういいの?」
手を放したクロワッサンに魔女リティが訊ねるも、彼女は赤い顔でこくこくと頷くだけだった。
「だ、大丈夫。ありがと」
ゲーム内だというのに赤い顔で何度も頷くクロワッサンに、魔女リティは首を傾げた。
「ところで今更だけど、先輩って呼ばれてるってことは、後輩か何かなの? あの三人」
「まあ、隠すことでもないか……うん、学園の後輩」
「確かクロワッサンって、全寮制のお嬢様校に通ってるんじゃなかった? ってことは、あの三人もリアル女子……しかもお嬢様ってわけだ」
以前、制服姿の三日月が校門の前でピースしてる写真が送られてきたことがある。その時は学園の名前を調べてずいぶん驚いたものだ。
「道理で課金アイテムとか使うわけだ。何で黙ってたのさ」
「だって……尻込みしちゃうかと思ったから」
「……まぁ、確かにそうかもね」
苦笑しながら魔女リティが返す。
実際には、尻込みしたとしても最終的には誘いに乗っていただろうが。
魔女リティには魔女リティなりに、このゲームを始めた理由がある。
「でも、このチームに呼んでもらえてよかったよ。あの三人はサポートのし甲斐がありそうだかんね――だから、一緒に頑張ろうね。クロワッサン」
「は、はいっ!」
その後のレベリングでは、なぜかクロワッサンがものすごく張り切っていた。
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