第53話 ベッドの上で二人っきり
夜九時を過ぎた。
自分の部屋の前に来た俺は、隣にいる天音を誘うようにドアを開いた。
「えっと……。では、どうぞ……」
「け……敬語とかやめてよ。緊張するでしょ」
「それも……そうだよな」
そうは言っても、俺は思春期の男なんだぞ。
現時点でも期待と妄想と不安で、頭の中はタクラマカン砂漠の砂嵐のようにパニくっている。
夜にカノジョがわざわざ部屋にやってくるのだ。
意味がないと思う方がおかしいだろう。
こんな状態では言葉もおかしくなるというものだ。
ここで天音は妙な行動をし始める。
ゆっくりと、ながぁ~く息を吸い込み始めた。
「すぅ~~~~~~~~。よっし!」
えっ!? なに、今の!?
なんで俺の部屋に入るだけで、そんなに気合を入れてるわけ!?
「えっと……。天音? どうしたんだ?」
「べっ! 別に……気合を入れたわけじゃないし」
「そうか……」
今のって気合を入れていたのか。
まるで大事な試合直前のスポーツ選手みたいだな。
よくよく見ると、いつも以上に表情がガチガチだ。
さては天音も緊張しているな?
って、いつまでドアのところに立ってるつもりだ。
とにかく部屋の中に入ろう。
天音は俺の部屋に入ると、さも当然のようにベッドの上に座る。
ポフンッと布団から空気が抜ける音がした。
特に意味を持たない日常の生活音であるにも関わらず、天音のお尻が布団の上に乗った音だと思うと、妙に……、なんていうか……、思春期の俺には刺激的だった。
「は、春彦も横に座ってよ……」
「あ、ああ……」
天音に促されて、俺もベッドの上に座った。
こうして並んで座ると、思春期特有の胸の高まりがえげつない事になっている。
ちっくしょう!
もう、こうしてるだけで幸せだよ!!
神様、ありがとう!!
だが、ここで俺は大失態を演じてしまう。
浅く座っていたのに、すぐ後ろに壁があると思い込んでいた俺は、おもいっきり後ろに体重を乗せてしまった。
そして勢いよく、壁に頭をぶつけてしまう。
ゴンッ! という鈍い音が響く。
「……何してるの?」
あきれるように訊ねる天音に、俺は苦笑いをしながら答えた。
「はは……。ごめん」
「もしかして緊張してるの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
改めて俺は体勢を整えて、天音の隣に座った。
もう、これだけで最終ミッションをクリアしたような気分だ。
「ふぅ……。座った」
「座ったね」
「ああ、座ってしまった……」
「実は、私も座ってるんだよね」
「本当だ。座ってる」
「うん……」
会話が続かん!
っていうか、なにを話していいのか、まったく頭が回らない!!
こういう時、どんな会話をすればいいんだ?
グーグル先生に聞くか?
いや、さすがにこの状況でスマホをいじるとかありえないだろ。
それに天音だって緊張しているんだ。
ここは俺がリードをして、会話を盛り上げないと……。
「えーっと、ちょっと暑いよな。エアコンの温度を下げるよ」
「う、うん。それ。私もそう言おうと思ってたの」
「やっぱり今はエアコンのタイミングだよな」
「そうね。とりあえず下げときましょ」
ぎこちない会話は継続中だが、とりあえず話をすることはできた。
まずは良しってことにしておくか。
エアコンのリモコンを操作して、温度を二℃下げた。
すると『ブオォー!』と涼しい風が入ってくる。
「エアコン……。すっごい勢いよく風が出てるね」
「パワフルモードにしてるから」
「あー。納得」
そんな時だった。
天音はモジモジしながら、訊ねてくる。
「そういえばさ、この前水族館でキスしたでしょ?」
「あ……ああ。そうだな」
「どうだった? 感想とか、聞きたいかなって……」
「えっと、よかった……」
「そっか……」
「うん……」
「あの時は私からだったよね」
「そうだな……」
こ……これは、誘われてるのか!?
さらに天音は話を続ける。
「エアコン、だいぶ効いてきたね」
「そうだな。ちょっと下げ過ぎたかな」
「うん、肌寒いかも」
「エアコンの温度を上げようか?」
「ううん。このままでいい」
間違いない! 天音はきっと待っているんだ!
よし……。やるぞ。
ここでしっかりと天音に優しくしてやるんだ!!
「じゃ、じゃあ……。温めた方が……いいよな?」
「そうね……」
俺は遠回しな言葉を挟んでから、ゆっくりと天音を抱きしめた。
今まで以上に、天音の体が小さく感じた。
すごく可愛くて、すごく愛おしい。
「天音……」
「春彦……」
こうして覚悟を決めた俺は、ゆっくりと天音にキスをする。
すると彼女の方からも求めるようにキスをしてきた。
二度三度とキスを繰り返し、天音は俺の耳元でささやく。
「春彦からのしてくれた初めてのキス。すごく嬉しい」
「めっちゃ幸せな気分だ」
「私も……」
でも……ここから先、どうしたらいいんだ?
漫画だとこの先は!!、つまり! アレなわけで!!!
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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