第12話 継母はヒロイン候補?
自宅に帰ると、いつもより仕事を早く終わらせた天音のお母さん・葉子さんが帰宅していた。
新しい家族との生活が始まって二日目だけど、あんまり葉子さんと話す機会はなかったんだよな。
正直、緊張する……。
リビングのローテーブルにお菓子とコーヒーを運んできた葉子さんは、俺の横に座布団を敷いてい、足を崩して座った。
「一緒に住むようになってから春彦君と二人で話をするのはこれが初めてね」
「そうですね」
「せっかくだし、テレビを見ながらポテチでも食べる?」
「はい、じゃあ、お言葉に甘えて……」
「うふふ。そんなに緊張しないで。朝ドラを録画しておいたの。お菓子を食べながら見ようと思って楽しみにしていたのよね」
天音の母親とはいえ、葉子さんの容姿はかなり若く見える。
二十代……、それも前半の見た目だ。
おっとりとした美人お姉さんという外見に大きな胸。
ゆるやかなウェーブが掛かった長い髪を、今は後ろでまとめている。
きっとクラスの男子なら、『紹介してくれ!』と懇願してくるだろう。
とはいえ、幼馴染の母親ということもあり、俺にそんな感情が湧くことはなかった。
「そう言えば、葉子さんはどんな仕事をされているんですか?」
「カフェの店員。ほら、ここ」
葉子さんは傍にあったチラシを取り、俺に見せてくれた。
そこは俺も何度か行ったことがある有名なコーヒーチェーン店だ。
「あ! スタパじゃないですか!」
「こう見えてブラックエプロンなのよ。駅前の店舗で働くことが多いから、よかったら来てね」
へぇ、葉子さんはスタパの店員さんだったんだ。
しかもブラックエプロンって、コーヒーに関する高い知識を持ったバリスタと認められた証ってテレビで見たことがある。
こうして自宅の姿を見ているとわからないけど、実はすごい人なんだな。
……あ、そうだ!
せっかく二人っきりでゆっくり話をする機会を得たんだ。
今こそ、天音と付き合っていることをカミングアウトするタイミングじゃないか!
よし!
「あ……あの……、葉子さん」
「なぁに?」
「実は、お話がありまして……」
すると葉子さんは、スッ……と瞳を細くした。
「恋の相談かしら?」
「――ッ!?」
まさか、俺の考えを読んでいた!?
おっとりとした雰囲気だけど、今の葉子さんからは人生経験からくる大人の凄みがにじみ出ている。
俺は苦笑いをしながら肩をすくめた。
「……気づいていたんですか」
「なんとなく春彦君が青春をしているのかなと思ってたの。今朝話そうとしたのもそのことかしら?」
「はい……。なんだかお見通しって感じですね」
「ふふふっ。伊達にママはしてないわ」
参ったな。
でもそのことを知っていて、それでも話を聞いてくれると言うんだ。
これは前向きな答えが期待できるぞ。
ゴクリと喉を鳴らした俺は緊張しながらも、天音とのことを切り出した。
「実は俺……、好きな人がいるんです。それは――」
――その時だった。
さっき葉子さんがつけたテレビから、とんでもないセリフが流れ始めたのだ。
『義母さん、好きだ!』
『ダメよ! あなたには私の娘が!』
『わかってる! でも俺は、この情熱は抑えられないんだ!!』
『ああっ! そんなに強引にされたら私!!』
やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!
このタイミングでこういうのは本当にやめてぇぇぇぇ!!!
俺も葉子さんもテレビの方を見て、凍り付いたように固まった。
テレビの中では主人公と義母が熱烈なラブシーンをおっぱじめている。
そして葉子さんは俺の義母。
ドラマの内容とリンクしているんだ。
しばらく固まっていた葉子さんは、ぎこちなくこちらを見た。
「あら? あれ? えーっとぉ……。もしかして春彦君の好きな人って、……そういうこと?」
「違いますよ!!」
やっぱり勘違いされてる!!
最悪だ! なんでこうなるんだよ!
神様は俺のことが嫌いなのか!
イジリ倒したいのか!!
とにかく早く弁明をしないと!!
「聞いてください! 俺が好きなのは――」
「ダメよ! 言葉に出したら、お互いに後戻りできなくなっちゃうわ!」
「お願いだから聞いて!」
もう泣きそうだ。
だがここで葉子さんは真剣な表情で考え始めた。
「でも、こういうのって優越感に浸れて面白いから、もうちょっと楽しんでみたいかしら」
「なに言ってるんですか! 問題発言ですよ!!」
俺がよほど慌てていたからなのか、葉子さんは楽しそうに笑い出した。
この状況でなんでこんなに余裕があるんだよ……。
……って、あれ?
もしかして葉子さん、誤解していないんじゃ?
葉子さんは姿勢を正して、俺の方を見た。
「まぁ、冗談はさておき……、春彦君が話したいことってなぁに?」
「……か、からかってたんですか」
「スキンシップは必要かなと思って♡」
なんだ、やっぱりそういうことだったのか。
天然なところがあるとは知っていたけど、こういうのは勘弁してほしいよ。
俺は改めて気持ちを整え、自分の気持ちを告白した。
「あの……。実は俺、天音のことが好きなんです」
■――あとがき――■
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