第5話 月野優香
「おはよう。春彦君」
自宅を出て学校へ向かう途中、俺に挨拶をしてきたのはクラスメイトで学級委員長の
艶のある黒髪はオシャレなボブカット。
そこに知性を象徴するかのようなシンプルなメガネ。
一見すると地味な女の子に見えるかもしれないが、ひと際大きな胸と、口元にあるホクロが彼女に大人っぽい魅力を付加していた。
「春彦君と通学中に会うなんてめずらしいね。どうしたの?」
「あー、えっと。ちょっと気分転換かな」
「そうなんだ。それで、天音さんと話はできた?」
「うん……。助かったよ、ありがとう」
「よかった」
寂しそうな……、それでいてホッとしたような表情をする月野さん。
そう……、天音が引っ越しをするという話は、月野さんから聞いたんだ。
学級委員長の仕事をしている時に、先生達が天音のことを話していた内容を聞いたらしい。
とはいえ、引っ越し先が俺の家とはさすがに知らなかっただろう。
「私ね。実はずっと前から春彦君が天音さんのことを好きなことを知ってたんだ」
「えっ!?」
「春彦君、よく天音さんのことを見ていたでしょ。だからなんとなくわかっちゃって」
えええっ!? 俺ってそんなにわかりやすい行動をしてたか!?
恥ずかしさを隠すように口元を手で覆う俺に、月野さんはさらに驚くことを言い出した。
「でも、天音さんがいなくなったなら、もう遠慮することないよね?」
「それってどういう……。わっ!」
突然、月野さんは俺の腕を引っ張って路地裏に連れ込んだ。
そして人目のないところまで来ると、両手で壁ドンをするような体勢を取る。
そして、彼女は言った。
「私、春彦君のことが好き……」
一瞬、冗談かと思ったが、彼女の瞳は本気だった。
「好き……。好きなの。春彦君のことが好きなの! 天音さんの代わりにはなれないかもしれないけど、私が天音さんのことを忘れさせてあげる! 春彦君のことをダメ人間になるまで甘やかしてあげる!」
え? え? ええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?
どうして急にこんなことを……。
あ……。そうか!
月野さんはまだ、天音が転校しないことを知らないんだ!!
はやく天音のことを伝えないと!
「ちょ、待って! 月野さん!?」
「ううん、待てない! もう、私! 自分の気持ちを抑えられない!」
月野さんは俺を見つめたまま、体を引っ付けてきた。
たわわな胸の感触がダイレクトに伝わってくる。
メチャクチャ柔らかい。ありがとうございます……って、何考えてんだ、俺は!
「一年の頃からずっと好きだった! でも春彦君は天音さんのことが好きみたいで、私じゃとても勝てないと思ったから応援するつもりだった……。でも天音さんがいないなら、私が気持ちを抑える必要なんてないよね!」
ヤバい! やっぱり天音がいなくなると思ってこんな行動に走ってるんだ!
月野さんの気持ちは嬉しいけど、天音は転校しない。
このままだと恥をかかせてしまう。
はやく伝えないと!
「月野さん! 違うんだ、落ち着いて!」
「何が違うの!? 私、春彦君とことが好き! もう天音さんにも誰にも渡さない! なんでもしてあげる! ……エッチなことだって……」
すると月野さんは制服のリボンをほどいて、シャツの上のボタンを外し、そして胸元を見せた。
うぉ! 水色のブラジャーだ!
しかも生の胸の谷間なんて初めてみたかも……って、冷静になれ! 俺! 今流されたら、取り返しがつかないぞ!
「触ってもいいよ。……春彦君がしたいこと、何でもしていいから……」
「違うんだよ! 聞いてくれ、月野さん!」
「イヤよ! もう天音さんはいないのよ! だから私、春彦君と――」
感情を抑えきれない月野さんに、俺は無理やり言葉を続けた。
「天音は転校しないんだ!!」
「え?」
一瞬で静けさが戻ってきた。
さっきまでとは一転して、落ち着きを取り戻した月野さんは呆然としている。
「引っ越しはしたけど、同じ街にいるんだよ。今日も学校に来ている」
「……そう……なの?」
「……うん」
月野さんはゆっくりと俺から離れて、服装を整えた。
その表情は戸惑いで満ちている。
わかるよ。その気持ち……。
だって昨日の夜、俺と天音も同じ状況だったんだから……。
「と……とりあえず、学校に行こうか……」
「そ……そうね。私、先に行ってるね」
「ああ……」
月野さんが小走りで去って行くのを見て、俺はため息をついた。
はぁ……。大変なことになってしまった。
俺はもう天音一筋って決めてるのに、まさか仲が良かった月野さんに告白されるなんて……。
しかし……、水色のブラか……。
結構エロイな。
そんなことを考えながら路地裏から出た時、よく知っている女子の声がした。
「おはよ。春彦」
「――ッ!? あ……天音!? いつからここに!!」
「んー。春彦が路地に連れ込まれる辺りから?」
ドバッと冷や汗が溢れるのを感じた。
天音は不自然にニコニコしながら俺に近づき、布の小包を差し出した。
「お弁当忘れてたでしょ? はい、これ」
「あ……。ありがとう……。えーっと、……もしかして、怒ってる?」
「ん~ん~。全然怒ってないよ。でも……、春彦が月野さんの胸をガン見してたのは、ちょっとだけイラっとしたかなぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ひぃ!」
俺と天音の同居生活は順調に行きそうにない。
■――あとがき――■
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