第3話 継母は天然のおっとりさん
幼馴染に告白をした数時間後、その母親と俺の父親が再婚をした。
そして今俺の前に、義妹となった幼馴染・天音がいる。
彼女は俺に近づき、小声で話しかけてきた。
「まさか春彦が義兄になるなんて……」
「そうだな……。どうする?」
「どうするって……言われても……。どうするの? 高校を卒業したら迎えに来てくれるんでしょ?」
「羞恥心をえぐってくるなよ……」
天音の今の言葉は、俺に羞恥心的ダメージを与えるためにワザと言ったのだろう。
クール系と言われるだけあって、からかい方もエグイな。
とはいえ、嬉しい気持ちがあるのも事実だ。
今日で天音をお別れすると思っていたけど、これからも天音と一緒に居られるんだ。
今度は以前のように距離を置かず、もっと積極的に関わるようにしよう。
すると俺のところへ天音の母親がやってきた。
「春彦君。改めまして天音の母、葉子です。今日からよろしくね」
「よろしくお願いします」
一言で葉子さんを表現するのなら、おっとりとした人妻だろう。
ゆるいウェーブが掛かった長い髪に、少しタレ目気味の瞳。
美人でスタイルもいいのに、胸も大きい。
年齢は確か三十代後半のはずだけど、見た目の印象なら二十代で十分に通用するだろう。
葉子さんは柔らかい口調で、話を進めた。
「春彦君、本当に大きくなったわね。小学校の頃までよく遊びに来ていたから、五年ぶりくらいかしら」
「そんなふうに言われると……恥ずかしいです」
子供の頃の話をされるというのは、どうにもむず痒い。
恥ずかしさを隠すために視線を逸らしたのだが、どうもその行動が葉子さんのイタズラ心に火をつけてしまったみたいだ。
「ねぇ、覚えてる? 春彦君が四歳くらいの頃、一緒にお風呂に入っている時に私の胸を何度も揉んできたのよ」
「ちょっと! よりにもよって、なんでそんな爆弾エピソードを暴露するんですか!」
「照れ屋さん♡」
「困ってるんですよ!!」
――と、ここですぐ近くから俺に向けられている冷たい視線に気づいた。
天音だ。
「ふぅーん。春彦、やっぱり胸が大きい方が好きなんだ。へぇー」
「いや、違うから! 誤解だから!」
天音も決して小さいというわけではない。
腰の細さから考えれば、ちょうどバランスのいい大きさだろう。
だけど普段から葉子さんと一緒にいる彼女にとっては、自分の胸はコンプレックスみたいのようだ。
そんな俺達のやり取りを見ていた葉子さんは、にっこりと笑った。
「あら? その時、天音ちゃんも一緒にお風呂に入ってたでしょ? 二人とも全裸を見せ合いっこしてたじゃない」
「お母さん!?」
「子供の頃の二人、とっても可愛かったわ。天音ちゃんなんて『春彦君を取らないでー!』って怒っちゃったのよね」
「やーめーてぇー!!」
「ちなみにこの話には続きがあって。私が『かかってこーいっ!』って言ったら、天音ちゃんったら泣きながら向かってきたのよ。あぁ~。本当に可愛かったぁ~」
「ぅ……ぅ……」
恥ずかしさのあまり言い返すことができなくなった天音は、両手で顔を隠して、ブルブルと震え出した。
これがクール系美少女と呼ばれる天音とは思えない姿だ。
って言うか、四歳児の我が子に葉子さんは何をやってんだ……。
父さんも暴走することはあるけど、葉子さんも危険人物のようだな。
注意しないと、いつどんな被害に遭うかわからない。気をつけよう。
すると天音が親から見えないように、俺の服の袖をチョンチョンと引っ張った。
「春彦……。ちょっと……」
「なに?」
「話したいことがあるから、隙を見て外に行きましょ。あんたもこのわけのわからない状況に困ってるんでしょ」
「そうだな」
こうして俺達は『近くのコンビニに買い物へ行く』という適当な理由を付けて外へ出た。
外に出るともう真っ暗だ。
時刻は夜の八時。
初夏の今の時期ならこんなものか。
コンビニまでの夜道を俺と天音は並んで歩いた。
「天音も親には苦労してるんだな」
「わかる? お母さん、天然だからさ……。二人だけの時はそこまで気にしてなかったけど、まさか春彦の前でもあの調子なんて……」
「気持ちはわかるよ。父さんなんて、確信犯で仕掛けてくるからな。あとオヤジギャグが絶望的に寒い……」
「とにかく、あの二人の前ではお利口な子供を演じること。でないとどんな被害に遭うか……」
「わかったよ。俺もこれ以上弄られるのは困るからな」
ここで急にお互いの会話が止まった。
ただ単に話のネタがなくなっただけなのだが、沈黙が妙にきまずい。
お互いに告白し合った内容が脳裏に蘇り、顔の温度が急上昇する。
横を見ると天音も同じようで、人形のような白くて美しい顔が可愛らしく赤く染まっていた。
「あ……あのさ、春彦」
「どうした?」
「えっとさ。……私、お兄ちゃんができたら手を繋いでみたかったんだよね」
もちろんその言葉が嘘だと言うことはわかっている。
本当は俺と手を繋ぎたいんだ。
「あ、ああ。なるほど。……うん。いいよな。俺も妹がいたら手を繋いでやりたかったんだ」
「き……気が合うじゃん」
「だな」
「つ……繋ぐ? 手を……」
「繋ぐか? どうする?」
「どうしよう? 春彦はどうしたらいいと思う?」
「繋いでいいと思うぞ。きょ……兄妹なんだし……。なにもやましい事はないよな」
「そ……そうよね」
本音を言えばメチャクチャ繋ぎたいのだが、恥ずかしさとか、緊張とかで、頭の中が真っ白になっていた。
結局その日は、指と指が一瞬だけ触れるだけに留まってしまう。
……俺達、このままで大丈夫なんだろうか。
■――あとがき――■
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