第8話 一人目
「由佳、僕はさっきから手なんて握っていないけど?」
僕は自身の手を由佳に向け何もつかんでいないことをアピールする。僕の言葉に由佳も首をかしげている。
「えっ、だってさっきから私の手を掴んでいるじゃない。・・・・えっ。」
由佳は自分の手を握っている手に目を向ける。そこには、ありえなく白く、小さな手が由佳の手を握っている。皆は由佳の手を握っている手の持ち主を見るとギョッとした。
『まずは一人目、み~つけた。』
その瞬間、僕たちは恐怖から脇目も振らず一斉に逃げ出した。誰にもかまっている暇はない。僕の心の中を支配していたのは純粋な恐怖、恐れといった感情のみで逃げ出すこと以外何も考えられなかった。
僕は気づけば僕は森の中を一人さまよっていた。必死で逃げている途中でいつの間にかみんなとははぐれてしまったのだ。そのうえ、最後に隠探さんを見たのは由佳の手を握っているときだ。
隠探さんの最後の言葉は一人目みつけた。この言葉から由佳は手遅れなのだろう。仮に、由佳が無事だとしても僕には隠探さんに立ち向かう勇気は既にない。
もしも捕まれば、永遠に隠探さんの遊び相手になってしまうという話を聞いた後では、あんなものに立ち向かえるわけがない。
頭に浮かぶのはいつも僕にやさしい父さんと母さんの姿だった。僕は真っ暗な森の中、由佳を見捨ててしまった罪悪感から木の根元でうずくまることしかできなかった。
それからどれだけ経ったのだろうか、僕はうずくまることをやめ、あたりを見渡す。
「こんなことをしていても意味がない、絶対に帰るんだ!ここから脱出して父さんや母さんにもう一度会うんだ!」
僕はこの世界から抜け出して元の世界に帰るために、カクレユメに詳しい龍矢を捜し始める。カクレユメの方法を知っている龍矢なら、脱出の方法も知っているかもしれない。
僕は隠探さんにおびえながらも龍矢を捜すために薄暗い森の中をさまよい始める。
それから、しばらく森の中をさまようと森を抜け出すことができた。ようやく、薄気味悪い森から抜け出し田畑が広がる田舎道にでる。視界の悪い森を抜け出したことによって一気に視野が広がる。
隠探さんの気配を気にかけつつ、あたりを渡すと平屋の窓枠から龍矢がこちらをのぞき込んでいるのが分かる。
なんて都合がいい、僕は急いで龍矢が立てこもっている平屋へと向かう。
「おい、翔、こっちだ、こっち!」
龍矢は窓枠からあたりを気にしつつ、小声で僕を平屋へと呼び入れる。ようやく、龍矢を見つけることができた、これでもしかしたらこの世界から脱出する方法がわかるかもしれない。
僕はひとまず、窓枠越しに龍矢の元へと向かう。龍矢は無事のようで僕は安堵する。それは龍矢も同じであったらしく、僕のことを見てほっと息をついていた。
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