第3話 夢の世界
その日の夜、そろそろ寝ないといけない時間だ。僕は眠くなってきたためにカクレユメの準備を急いで行う。
「えっと、まずはみんなから集めた髪の毛を紙で包むんだったよね。それから、この紙を燃やさないといけないと。さっき父さんの部屋からライターと灰皿を持ってきたからそこで燃やそう。」
僕は髪の毛を燃やしたときの嫌なにおいを感じながら灰皿の中で瞬く間に燃え尽きるのを確認する。
「よし、これで燃えて灰になったからこの布に入れるだけと。龍矢の話だとこれを枕元に入れて寝るだけか。う~ん、今更だけどこんなことで本当に夢の世界なんかに行けるのかな?」
その夜、僕は龍矢の話に疑問を抱きつつも真実であることを考えればいつまで経っても眠ることができなかった。しかし、それも限界に来たのだろう。気づけば僕はいつの間にか瞼が重くなり眠りについていた。
僕が目を覚ますと目の前には田舎ののどかな景色が広がっていた。あたりを見渡す限り、田んぼや畑で囲まれており、あたりにある民家は今時には珍しい木造の平屋しかなかった。
「ここはどこだ?いったいどうなっているんだろう?」
僕は今まで見たこと無いような風景に呆気に取られていたが自然と現状を思い出す。
「そうだ、僕は確か龍矢の話の通りカクレユメの儀式を行って眠りについたはず。ということは本当の僕は家のベッドで眠っていてここは龍矢が言っていた夢の世界?」
僕はいまだに見慣れないこの田舎風景を見渡していると遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「お~い、翔!こっちだこっち!」
声のするほうを見ると龍矢がめいいっぱい手を振り僕を呼んでいた。僕はすぐさま龍矢の元へと駆けていくと、そこには龍矢の他に真矢と由佳も一緒にいるようだった。
「龍矢!ここってもしかして・・・。」
「あぁ、そうさ!ここが俺が言っていた夢の世界、カクレユメを行うことでしか行くことができない世界だ。」
「やっぱり、まさか本当にあるなんていまだに信じられないよ。」
「なんだよ、信じていなかったのかよ。」
龍矢は僕の言葉に少しだけ拗ねてしまったようだ。ふと、真矢のほうに目を向けると心なしか元気がないように思える。
「なぁ、なんか真矢、元気ないような気がするんだけど、大丈夫?」
「あぁ、真矢ちゃんならちょっと落ち込んでいるだけよ。」
僕の問いに答えたのは由佳だった。僕は由佳の話を聞き、ようやく真矢が落ち込んでいる理由を理解するのであった。
「あれだけ、龍矢君のこと嘘つきって言ってたでしょ。でも、実際には本当に実在したからさっき龍矢君にほら見たことかって言われちゃって何も言い返せないから落ち込んでいるのよ。」
そう言われてみればそうだ。もとはと言えば二人の言い争いからカクレユメを行うことになったのだ。そして、実際に龍矢の言っていたことはすべて本当だった。
龍矢の性格からこの状況で真矢に何も言わないわけがない。目の前で見ていなくても龍矢が真矢に対してマウントをとっている様子が目に浮かぶ。
「だから言っただろ、全く俺の言うことを信じろよ。」
「仕方ないじゃない、普通こんなこと言われて信じる人なんていないわよ。」
「でも本当にあったじゃないか。」
「うっ。」
真矢は完全に龍矢に何も言い返せないでいるようだった。そんな中、助け船を出したのは由佳だった。
「ハイハイ、龍矢君ももういいじゃない。真矢ちゃんも反省しているわよ。それに、せっかくこんな場所に来たんだから遊びましょうよ。もったいないじゃない。」
「そうだよ、僕、こんなのどかな田舎に来たのは初めてだよ。せっかくだし、みんなで探検しない?」
僕は初めて見る田舎の風景に興味がわいていたため、由佳の提案に賛成する。
「まぁ、二人が言うのならそうするか。」
「そうね、こんな奴と喧嘩しているよりも探索のほうが面白そうだわ。」
龍矢と真矢の二人もこんな場所で喧嘩をしているのが馬鹿らしくなったのだろう。みんなで話し合った結果、探検をすることになったのであった。
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