10話 冒険者ギルドの大惨事

 冒険者ギルドにて、白銀草の採取とゴブリンの討伐を報告した。

 そして、昼間に絡んできた2人組の先輩冒険者がまた絡んできた。


「おうおう、ゴブリンの群れを討伐したくらいでいい気になるなよ?」


「ギャハハハハ! 新人がまぐれで活躍することもたまにはある。だが、それがいつまでも長続きすると思うなよ」


 ううむ。

 いかにも、チンピラといった感じの雰囲気だ。


 しかし、言っていることをよく整理すると、意外にスジは通っている。

 昼間もそうだった。

 ひょっとして、純粋に後輩である俺の身を案じてくれているだけなのか?


「ご忠告ありがとう。せいぜい、気をつけて励むことにするよ」


 俺はそう言う。

 俺は剣術と火魔法の心得があるし、サリーナという頼りになる仲間(怨霊だけど)もいる。

 ちゃんと気をつけていれば、大きな危険に見舞われることもないだろう。


 さらなるリスクヘッジのために、パーティメンバーを探してみるのもありだ。

 裏切らないパーティメンバーとして、奴隷を購入するのもいい。

 今は金がないのでムリだが。


「おうおう、自信過剰な新人はみんなそう言うんだ」


「ギャハハハハ! 俺たちで、今度こそ稽古をつけてやるぜ。来な!」


 2人組がニヤニヤ笑って、俺の肩に手を回す。


 たぶん悪い人ではないようなのだが……。

 ちょっとおせっかいだな。

 別に少し付き合うぐらいは構わないが……。


「うふふふふ。また、私のダーリンにベタベタ触れたわね。お前たちに、災いあれ!」


 サリーナがそう叫ぶ。

 とはいえ、聞こえているのは俺だけのようだが。


「おうおう、ボサッと立ってねえで修練場のほうに行くぜ。……うぐっ!?」


「ど、どうした相棒!? ぐおっ!?」


 2人が、それぞれ胸を押さえて倒れ込む。

 昼間にも見たような光景だ。


「(サリーナ……。やりやがったな)」


 俺は小声で、サリーナを問い詰める。


「だ、だって! こいつら、私のダーリンにベタベタ触るし……」


「(別にここまでする必要はなかっただろ? たぶんそれほど悪い人たちではないし……。むしろ、こっちが悪人になった気分だよ)」


「う、うう……。ひどい……。ダーリンのためにやったのに~! びえーん!!!」


 サリーナが泣き崩れる。

 少し言い過ぎたか?

 彼女がここまでやったのは、嫉妬心だけではなく、俺の身を案じる気持ちもあっただろう。


「(お、落ち着け。な? 俺も言い過ぎたから……)」


「びえーん! うわーん!!!」


 俺は彼女をとりなそうとするが、彼女は我を忘れて泣いている。

 俺の言葉が届いていない様子だ。

 瘴気が増して、ずいぶんと怖い顔つきになってしまっている。

 そしてーー。


「うっ!? 何やら寒気が……」


 受付嬢がそう言う。

 顔色が少し青くなっている。


「がっ!? な、何だこれは……?」


「ぐむっ!」


 周囲にいた無関係の冒険者たちも、次々と倒れ込んでいく。

 これは……。

 サリーナの瘴気が暴走して、無差別に人を襲っているようだ。


 サリーナの何とかして落ち着かせないと。

 しかし、彼女は我を忘れて泣いており、俺の言葉は届いていない。

 かくなる上はーー。


 チュッ。

 俺はサリーナを抱きしめ、キスをした。

 彼女は驚愕し、瞳を大きく見開く。

 瘴気によって歪んでいた顔つきが、もとのかわいい顔つきに戻っていく。

 俺は彼女が落ち着いたのを確認し、口唇を離す。


「ダ、ダーリン!? いきなりキスするなんて、もう!」


 サリーナが体をクネクネさせ、そう言う。

 顔が赤くなっている。

 照れているようだ。


「サリーナに怖い顔は似合わない。ずっと、そのかわいい顔でいてくれ」


 俺はキメ顔でそう言う。

 彼女はかわいい。

 しかし、嫉妬などによって瘴気が増幅してしまったときは、歪んだ怖い顔つきになる。

 何とか、平常時のかわいい顔を維持してもらいたいところだ。


「うふふふふ。わかったわよ、ダーリン。気をつけるわ」


 サリーナがそう言う。

 ふう。

 これにて一件落着だ。

 そう思ったがーー。


「…………どうすんだ、これ」


 俺は冒険者ギルド内の大惨事を見て、そうつぶやく。

 サリーナの瘴気を受けても、幸運なことに死人は出ていないようだ。

 しかし、泡を吹いて倒れ込んでいる人、青い顔でうずくまっている人、虚ろな顔でブツブツつぶやいている人などが多数いる。


 これはマズイかもしれない。

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