9話 冒険者ギルドへ報告

 サリーナを連れて、ローグイラの街に帰還した。

 怨霊であるサリーナは、宙に浮きながら俺に付いてきている。

 いや、憑いてきていると言ったほうが正しいか。


 彼女の顔はかわいい。

 しかし、周囲にはおどろおどろしい瘴気が渦巻いている。

 俺は長年の慣れのおかげか結構平気だが、普通の人なら忌避感を覚えるのではなかろうか。


 俺はそんなことを考えつつ、サリーナとともに街中を進む。


「……? みんな、サリーナに反応していないな?」


「うふふふふ。そりゃそうだよ。普通の人は、私を知覚できない。知覚できるのは、テイマーとしての才能がある人か、聖魔法の才能がある人ぐらいだろうね」


 テイマーの才能がある人といえば、父上や弟のエドガーあたりだろうか。


 聖魔法の才能がある人は、知人にはいないな。

 ……いや、1人いたか。

 聖光教会で聖女見習いとしてがんばっている、あいつが。


 俺は、あいつにあいさつもできないまま伯爵家を追放されてしまった。

 落ち着いたら、顔ぐらいは出しておきたいところだ。


「なるほどなあ。みんなには、サリーナは見えないわけか」


「うん。だから……。あんまり、しゃべんないほうがいいかもね? ほら、みんなダーリンのことを見ているよ?」


 サリーナの言葉を受けて、俺は周囲の状況を確認する。

 道行く人が、俺のことを変なやつを見る目で見ている。


 そうか。

 普通の人はサリーナを知覚できない。

 つまり、俺は虚空としゃべっている頭のおかしいやつに見えているわけだ。

 これはマズイ。


「(ぐぬっ。気をつけることにしよう)」


 俺はそうつぶやき、足早にその場を後にした。

 目指すは、冒険者ギルドである。



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「よう。銀月草の採取依頼を完了した。処理を頼む」


 俺は冒険者ギルドにて、受付嬢にそう依頼をする。


「承知しました。では、所定量の銀月草をカウンターに出してください」


 俺はリュックから銀月草を取り出すために、まずはリュックをカウンター上に置く。

 リュックはパンパンだ。

 結構重くて、少し疲れた。

 それを見て、受付嬢が言葉を続ける。


「ふふっ。それにしても、ずいぶんといろいろと採取したみたいですね? 銀月草以外でも、買い取れるものがあれば買い取りますよ?」


「え? いや、このリュックの中身はほとんど銀月草だが。……よっと」


 俺はリュックをひっくり返すようにして、中にパンパンに詰めていた銀月草をカウンター上にぶちまける。


「な!? ま、まさかこれだけの銀月草をお一人で?」


「ああ、もちろんだ」


「す、すばらしい採取勘をお持ちですね。これは有望な新人が来たものです。なかなかの金額になると思いますよ」


 受付嬢がそう言って、処理を進めていく。

 とりあえず、依頼は達成となるだろう。

 成功報酬をもらえるし、ランクアップ査定もプラスになるはず。


「そうそう。採取中に襲ってきたゴブリンがいたから、返り討ちにしておいた。討伐証明部位を持ち帰ってきたので、こちらもついでに処理を頼む」


 俺はゴブリンの討伐証明部位をカウンター上に並べる。

 合計で、10匹分以上はある。


 受付嬢は白銀草のほうの処理を進めながら、口を開く。


「おや、ゴブリンですか。単独のゴブリンは、初級冒険者にとってはそこそこおいしい獲物ですね。経験も積めますし、討伐報酬もそこそこですし。アルフさんは、単独行動のゴブリンに遭遇できてラッキーでしたね」


 ここで、受付嬢がようやく白銀草のほうの処理をひと段落させ、ゴブリンの討伐証明部位のほうへ視線を移す。


「……って、えええええ!? 1匹だけじゃなかったのですか!? ひい、ふう、みい……。10匹以上の群れを討伐されたのですか? お一人で!?」


 受付嬢が驚きながらそう言う。


「ああ、俺1人でやったぞ。これぐらい、どってことないさ」


 厳密に言えば、サリーナの力のおかげだが。

 しかし、彼女は俺のテイマーとしての力に惹かれて俺に憑いている様子だ。

 ある意味では、彼女の力も俺の力と言っていいだろう。


「そ、そうですか……。これは、とんでもない有望新人ですね。さっそく、Dランク昇格の申請をしておきます!」


 受付嬢がそう言う。

 登録初日で、Dランクへ昇格できそうだ。

 父上たちを見返すために、いいスタートを切れたと言っていいだろう。


 白銀草とゴブリン討伐の報酬を受け取り、俺は受付から立ち去ろうとする。

 そのときーー。


「おうおう、調子に乗ってんじゃねえぞゴラア!」


「ギャハハハハ! 昼間は腹痛で見逃してやったが、今度こそは容赦しねえぜ。覚悟しな!」


 2人組の男からそう声を掛けられた。

 昼間に絡んできた、あの2人組だ。


 さあて。

 今度は、どうしたものか。

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