アンバランス

シヨゥ

第1話

 別れは突然に訪れる。

「あなたと居るとおかしくなる」

 そう言われたときは心臓が止まるかと思った。

「でも好きなの。だから少し距離を取りたいの」

 少しの慰めと明確な拒絶。最愛の人を無自覚に追い込むようなダメ人間には恋愛の資格なんてない。だから僕はそれを受け入れた。


 数日経っても心に穴が空いたような感覚が消えない。

 ここまで未練がましいとは思いもよらなかった。それほど彼女を愛していたのだろう。

「最近心ここにあらずって感じだけどどうした?」

 そんなだからか先輩に心配されて声をかけられた。

「実は――」

 信頼の置ける人だからかついつい愚痴ってしまう。

「なるほどな。それは辛い。昔俺も嫁に同じことを言われたな」

「先輩もですか?」

「そう。簡単に言えば、互いに供給し合う量のバランスが狂っていたって話なんだが」

「供給し合う量、ですか?」

「そう。俺が嫁に与えるもの、例えば給料。あとは時間だな。俺が家事をやることで時間を与えていたわけだ。その与える量が多すぎて『私の存在意義って何』って怒られてな。あの時は焦った」

 そう言って少し恥ずかしそうに笑った。

「何事もバランスが大事なんだよ。話を聞いている限りじゃ、彼女のためと思ってやったことがもしかしたら重荷になっていたのかもしれないな」

「そう、ですね」

「そんな暗い顔すんなって。まぁ今はお互いに頭を冷やして、それからまた話合えばやり直すことも出来るんじゃないか」

 その言葉でなんだか光明が見えたような気がする。

「そうですね。そう考えて行動してみます。話を聞いてくれてありがとうございます」

「いいってことよ。取り敢えず午後の会議は真剣にやってくれよ。課長怖いんだから」

 僕を励ますように肩を叩くと先輩は仕事に戻っていった。


 後日談になる。僕は彼女と復縁することはなかった。

 それでもバランスを意識した生活を継続している。

 与えすぎず、受け取りすぎず、程良いところを探る直感。それこそが人生を楽しむコツだと思うからだ。

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アンバランス シヨゥ @Shiyoxu

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