第40話 勝手に契約するのはナシだと思います



「………………は? え、なにその『生涯唯一』とか」



 やたら重苦しい単語がツラツラと出てきたんだけど、これ大丈夫なのか? 嫌な予感しかしないんだけど……。

 しかも奴隷契約が嬉しいって? こんな子供たちに主人様とか呼ばれても、いたたまれないんだけど!?


「兄ちゃん、主人さま、もしかして知らないのかな?」


「そうみたいだな。主人様、少しオレたちの話を聞いてもらえませんか?」


「……わかった。じゃぁ、飯でも食いながら話そうか」


 子供にひざまつかせてるのもイヤだし、とりあえず美味いものを食べさせることにした。腹減ってんだろうしな。前にみんなで行ったレストランでいいか。こんな昼間じかんなら奴隷商人も来ないだろ。




「いらっしゃいませ! あれ、今日は獣人のお連れ様ですか?」


「うん、コイツらの食べたいもの頼めるか?」


「もちろんですよ! 何が好きかな? 肉? 魚?」


 ふたりとも驚いていた。何でそんなに驚いているのかわからないけど、あ、もしかしたら奴隷契約が邪魔してるのか?


「主人の命令だ。奴隷契約から解放する。これからは心のまま自由に生きろ」


 俺がそう言うと、ふたりの赤い首輪はバチンッと音を立てて外れた。あれ、さらに驚いてる?


「ほら、もう奴隷じゃないんだから、好きなもの頼めよ。まずは腹いっぱい食え」


 ふたりは顔を見合わせてから、「「はい!」」と元気よく答えてモリモリ食べた。本当にモリモリ食べた。

 そんなに、腹減ってたのか? いや、いいんだ、金は気にするな、これでも大魔王だからな。満足してくれたらそれでいいんだ。ひと通り食べ終わったところで、尋ねた。


「それで、獣人族の契約ってなんなんだ?」


「はい、獣人族には生涯でただひとり、忠誠を誓う主人がいます。滅多に出会えないけど、会えばこの人だって必ずわかるんです。そして主人様と血の契約をすれば、獣人族の本来の力が使えるようになります」


「主人さまは、ボクと兄ちゃんの、ただひとりの主人さまだったんです」


「でも、お前たちとその血の契約とか、した覚えないけど」


 だって、コイツらと会ったあと捕まって、ずっと牢屋にいたし。さっき出てきたばっかりだし。


「あ……あの、どうしても主人様になって欲しくて、勝手に契約してしまいました……ごめんなさい」


「え、契約って俺なしでできるの?」


 ライルは気まずそうに答えてくれた。


「はい、主人様の血と、魔力が少し使えれば契約できます」


「血? 血なんて……」


 あっ! そういえば、捕まる時に怪我してた! 牢屋に入ったら、すぐ治してもらえたから忘れてた。え、あの時の血で契約できたの!?


「主人様の血は、一滴あれば充分なんです。たまたま、オレたちの檻に主人様の血がついてて、それでオレもアシェルも契約できたんです」


「だからボクたちには、もうただひとりの主人さまなんです」


「それって解除とか……」



「「できません!!」」



 だよねー! そうだよねー、ていうかさ、勝手に契約すんのはナシだと思うんだよね?

 あの状況じゃ、俺は牢屋行き決定だし、戻れる保証もなかったしな。


「もし俺が迎えに来なかったら、どうしてたんだ?」


「そうですね、本来の力を解放すれば檻なんて脱出できるし、血の契約によって主人様の居場所は大体わかるので、追いかけるつもりでした」


「本来の力って? 俺の居場所わかるの!?」


「主人さまが大体この辺にいるっていうのだったら、わかります」


「本来の力は……見たいですか?」


「うん、まぁ、問題ないなら」


 話聞いちゃったし、契約解除できないなら、せめて独り立ちできるまで世話するしかないしな。それなら、ふたりの事をちゃんと理解しておかないと。


 ここでは難しいようなので、会計を済ませて外に出た。すでに太陽は西へ沈みかけている。暗くなる前にと、ほとんど人のいない広場まで移動した。


「ここならいいかな。アシェル準備はいい?」


「うん、大丈夫だよ」



「「解放リベラ」」



 その瞬間、目の前が光ったと思ったら、体高ニメートルくらいのホワイトタイガーが二匹あらわれた。もう一回言うぞ、二メートルあるホワイトタイガーだ。ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくる。


 マジで、ホワイトタイガーだ。さすがの俺もヨシヨシと頭をなでる気にはなれない。だってさ、牙が……牙の長さが俺の頭くらいあるって、どうなの?


「わかった、わかったから元の姿に戻ってくれるか?」


 また光ったと思ったら、元の子供の姿に戻っていた。


「はぁ……とりあえず、宿屋に行こう。それから、俺のことはレオンて呼んでくれ」


「「はいっ!」」




 そんな俺たちの後ろ姿を、ワナワナと見つめている人影があった。トカゲの獣人族の奴隷商人だ。レストランに行く途中で、レオンたちを見つけて気になって、後をつけていたのだ。


(あ……あれは、間違いなくホワイトタイガーじゃないか!? まさか、あんなレアな種族だったなんて! レアすぎて鑑定できなかったのか!? あいつら売ったらひとり金貨五千枚は値がついたのに……なんて事だ!!)


 気付かぬうちに、奴隷商人に仕返ししていたレオンだった。


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