その刀、輪を断ち切るか

只野夢窮

真夜中

 自分が退魔士である理由を考えてみたことなどなかった。

 生まれたころから自然とそうだったのだと思う。

 おじいちゃんも父さんも母さんも退魔士だった。初めて魔を見たのが三歳の時、初めて小さい魔を倒したのが五歳の時。それは当たり前のことだった。普通の人間が転びながらも自転車に乗れるようになるように、ある程度痛い思いもしながら、少しずつ魔術を覚え、倒せる魔を増やしていった。それが当たり前だと思っていた。

 “嫌だと思ったこともなかった。”何より退魔士は、子供にとってはすてきなことだらけだ。

 まず、早く体が大きくなる。私はまだ小五だが、すでに身長は157センチ、体重は秘密だけど胸はEカップある。ほぼ大人の体型に近い。退魔士は早く成長するのだ、と父さんから聞かされた。早く成長しなかった人たちが淘汰された、ということでもあるらしい。いずれにせよ、子供は早く大人になりたがるものだ。私だってそうだ。学校で前にならえをしたら一番後ろだし、体育の授業では一番活躍できる。勉強だってクラスで一番だ。髪が伸びるのも早い、のは退魔の仕事で激しく動く時に邪魔だから、いつもショートヘアにしている。

 次に、スマホが自由に使える。ペアレンタルコントロールもかかってない。父や祖父から魔が出現したという連絡を受けるために必要だし、今は場所もスマホの地図機能ですぐ説明できる。

 それに、お金もたくさんもらえる。クラスメイトが月に1000円ぐらいのおこづかいをもらっているのを後目に、私は月に5万円渡されている。それはもちろん経費と言う面もある。例えば隣の隣のそのまた隣町に魔が出たとする。もちろん自転車をこいで1時間以上かけていくわけにはいかない。電車やタクシーを必要に応じて利用できるように、ある程度のお金を前もって渡されている。

 もちろん、お金もスマホも、あくまで退魔の仕事用のものだ。だから、スマホで遊びすぎていざという時に電池が切れていたり、お金を使いすぎていざという時に移動できないということになれば、滅茶苦茶怒られる。けど、そんなヘマをしなければ、私がスマホで好きに遊んでいても、好き勝手に買い食いしていても、父さんもおじいちゃんも全く怒らない。

 “だから楽しい。”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る