ショッピングモールへ!

おばあちゃんとの記憶

「ミスズ、驚かないで聞いておくれ」

「うん、分かった」


 おばあちゃんは、あの日と同じ真剣なまなざしで私を見た。


「おばあちゃんはね、魔女だったんだ」

「魔女!?」

「そうさ」

「悪い魔女!!?」


 そう問いかけた私に、おばあちゃんは豪快に笑った。


「ミスズ、それは童話の読みすぎさ」


 その頃、私は世界の童話にハマっていた。

 童話には、悪い魔女がたくさん登場してくる。

 魔女と聞いて最初に思いついたのは、そういう悪い魔女だったんだ。


「アンタのお母さんもね、魔女だったんだよ」

「お母さんも!?」

「そうさ。だけど、アンタのお母さんは魔女をやめたのさ」

「どうしてやめちゃったの?」


 私が尋ねると、おばあちゃんは悲しそうな顔をした。


「それはね、お母さんは魔法を信じられなくなっちまったのさ。大切な相棒をなくしちまった時にね」

「大切な、相棒……?」

「でも相棒をなくしても、時間は止まってくれない。魔法をいらないと思ってしまったらもう、魔女には戻れないんだ。だからお母さんは、魔女だったことを忘れている」


「魔女をやめたら、魔女だった時のこと、忘れちゃうの」

「そうさ。魔女や魔法使いはもう、世界には存在しないものだと思われているからね」


 おばあちゃんはそう言いつつ、私の頭をなでた。


「だから、アンタは忘れないでおくれ。わしもアンタの母さんも。魔女だったってこと。そして、アンタもいつか、魔女になるんだってことをね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る