DEVIL TAKER~この世にいちゃいけない悪魔たちに俺自ら復讐を下してやる~

本を読むスライム

第1話 GOD


 俺、如月啓人きさらぎたかとは今みたいな時代ならどこででも見れる、イジメられてる子だ。


 外見は切ったばかりの黒髪にそれなりにはっきりとした顔。

 性格はちょっと小心者だから俺のほうから声をかける場合は珍しいけど、話しかけてきたらちゃんと会話できるコミュ力を持っていた。


 趣味はゲームや小説。つまりアニメや漫画が好きなオタクだ。でもこれはあくまでもストーリを持った創作物が好きなだけでフィギュアやグッズとかは持っていなかった。


 ここであなたは疑問がするはずだ。どうしてそんな内面的にも、外面的にもごく普通な高校3年生がイジメなんかを?


 理由は単純だ。俺はただ…… 奴らに目をつけられたからだ。


 勉強によるストレスフリー、クラスの中で自分の位置を示すためのパフォーマンス、ただの快楽…… 奴らはそんなもののために自分より弱い相手を探し、俺はそれに当たってしまったということだ。本当に単純だろ?


 だから俺は学校という地獄に行くのが大嫌いだった。どうせ学校に行ったって漫画に出る青春どころかニュースに出る校内暴力だけが待ってるんだから。いつもこんな現実から逃げたいと思ってたけど学校をやめるわけにもいかないし我慢することだけが唯一の方法だった。


「いっそのこと異世界にでも行けたらいいのに……」


 校門を通るトラックを見ながらそうつぶやいた。せめて雲石でも落ちてほしいと願いながら教室の門に手を伸ばす。


 今日も変わらない日常だけが待ってるはずだ。殴られて、馬鹿にされて、理不尽をされて…… せめてこっそり門を開ける。来たことに気づかなければ、少なくともHRまでは殴られないから。俺にできることは…… せいぜいそのくらいだ。


「……… え?」


 教室に足を踏み入れた瞬間、爆弾でも落ちたかのようなすさまじい衝撃が教室全体を揺らした。その衝撃に流されて肩から地面に転んだ。


 ずきずきする痛みを無視して顔を上げてみるとクラスに集まっていたクラスメイト達も衝撃に転んだり驚いて呻いてたりしてるのが見えた。


 続けて見えたのは窓の外だ。山や山脈でなっていた窓の風景が石製と木製、いわゆる中世風の建物に変わっていた。


 ……なんだ?何が起こったんだ?


「イッテエェ……!今のは何なんだちくしょう……!」


 衝撃に頭を抱えたまま起きたのは、いつも俺をイジメてるチンピラの隊長。大門勝己だいもんかつきだった。


 見た目から乱暴そうというか、同い年とは思えないくらいヤクザぽい印象の奴だ。


 ごつごつした筋肉の上には青い血筋が見えて、髪は坊主ほどじゃないけどかなり短い。


 最近はキックボクシングの地域大会で準優勝したらしいけど、それから俺へのイジメがさらにひどくなってた。

 俺と同じに窓の外を確認しては、目が驚愕に染まる。


「な、なんだ…… これ……」


「いててて。おいカヅだいじょうー え?!」


「な、何がどうなってんだ……?どこだここ?!」


 いつも勝己かつきとつるんでる邦枝くにえだ中山なかやまがかつきー 通称カヅと同じに窓の外を確認して驚いた声を出す。

 しばらく外を見て固まっていたカヅは「ク……ッ!」とうめき声を出して何か思いついたみたいにこっちに向かって走ってきた。


「邪魔だクソナード!どけ!!」


「う……っ!」


 俺の頭を押し倒したカヅは邦枝、中山とともに教室の外へ出た。


 普段だったらクラスメイト達が目をそらしたり嘲笑ったりしたはずだけど、今はそれどころじゃない状況にみんな気にもしなかった。


 それは俺だってそうだ。痛いけど急いで体を起こしカヅについて教室の外へ出る。


 そこには、窓から見たのと全く同じ中世風の町が存在していた。

 石製と木製と窓で作られた建物が町を形成し、だいたい60mを超える壁がその町全体を包んでいる。


 空を見上げる。暑い日差しとともに雲がのんびりと流れてる。同時に涼しい風がさっきカヅに倒されてつけられた傷口に触れてこれが夢ではないってことを証明してくれた。


「どうなってんだ……」


「お~い!みんな!無事か!」


 横から聞こえてきた声に俺はもちろんカヅ達がそっちを見つめる。


「おお!新月!」


 カヅが嬉しそうに迎えたメガネの名前は、新月司しんげつつかさだった。


 くせ毛の黒髪、度数が強くない銀縁眼鏡をつけている。


 学年成績トップであり生徒会長を務めている彼は爽やかな容貌に運動神経までよくて学校一の優等生として知らされている。


 しかもあの新月財閥の次期当主でもあるんだけど、そんな奴がなぜだか知らんが学校一の問題児であるカヅととても仲が良かった。


 今は見たことない女の子の肩を抱いている。


「マー君大丈夫?!」


「あ、ああ。ゆめか。」


 新月の反対側から現れた少女が邦枝をマー君と呼びながら彼に抱き着いた。


 彼女の名前は空木夢子うつぎゆめこで学校一の美少女だ。


 カールが入った金髪をサイドポニーテールに結びあげて左の耳には四つもピアスをつけている。


 ちょっとだけ焼けた茶色の肌に染めた詰め、短い制服からわかるように彼女はギャルだ。


 彼氏である邦枝は状況のせいか夢子を見ても戸惑う顔をしたけど夢子の大きな胸が当たると茶色のほっぺを吊り上げて彼女をより強く抱きしめた。


 カヅが少し慌てる声で言った。


「これは何が起こったんだ新月。」


「私にもわからない。何か大きな衝撃が起こったと思ったら教室の外が一変した。」


「クソ…… 爆弾でも落ちたんじゃねえのか?」


「戦争が始まったって話は聞いてない。それに爆弾なら衝撃だけじゃなく建物が壊れて死傷者が出たはずだ。」


「そんなもんわかってるよ!言ってみただけじゃねえか。くっ…… ケータイの電波は何で届かないんだ。いったいどこなんだよここわ。日本じゃないのは確かだよな?」


「建物を見たところ西洋、しかも中世西洋て感じだね。でもあんな高い壁に包まれた町は私の記憶内にはない。それにこの町…… さっきから妙に人の気配が感じられない。」


 みんなでもう一度周りを見てみた。新月の言う通り町には人の気配どころか動物や虫すら存在しなかった。ネットで見た幽霊町。石製と木製で作られたくせに古いって感じがしなくてよりぞっとする。


 みんな同じことを感じたのか夢子は「ヒイッ?!」とさらに邦枝に抱き着きほかの奴らも冷や汗を流しながら周りを警戒した。


 ――その時


「やあみなん。怪我はないかい?」


 声を聞いた瞬間、反射的に体が緊張して固まる。だがそんな俺とは逆にほかの奴らの顔からは緊張感が薄くなり顔色が明るくなる。


 奴は、キツネに似てる。口先を柔らかく上げてじっと閉じられた目でやさしく笑う童顔の少年だ。


 その余裕は車が一体も存在しない道路を堂々とわたっている人みたいだった。それとも国民を見下ろす総理大臣とか。


 俺をバカにして、いつも俺をイジメてるあの忌まわしい奴らの中心になるやつであって、名前は…… 天草寺帝あまくさみかど


「みかちゃん!姿が見えなくて心配したよ!」


「ごめんごめんカヅちゃん。さすがの僕もびっくりして体が固まってしまったんだ。」


「状況は把握しているのか?寺帝君。」


「衝撃が起こったのと同時に教室丸ごとほかのところへ飛ばされたってことと、ケータイの電波が届かない、ってことかな。君とあんま違わないと思うよ司君。」


「とにかくみっくんがいるからこれで安心だね。」


「やめてよゆめちゃん~ 今回ばかりは僕も冷静を保つのがやっとだから。」


 珍しく弱音を吐く天草だったけど、顔にも声にも本当に困ったという感じはなかった。いつもの余裕のある姿だ。


 俺はイジメされる前からあいつが嫌いだった。あんな無害そうな顔でいじめの中心になったり、怪しすぎる金とかかわったのにも何もなかったかのように世界を生きるあいつが怖かった。

 野生の動物みたいなカヅも、坊ちゃまである新月でさえも奴にだけは頭を下げる姿が今にもショックとして残っている。


 そんな奴が視線を動かすので急いで目が合わないように顔を下げた。


「それで?どうするつもりだ?寺帝君。」


「うう~ん そうだね。見たところA組からE組。3年は全部来たみたいだし。じゃあそれぞれのクラスに戻ってまだ出てないクラスメイト達を連れてきてくれ。その次に組を組んであの町を調べてみよう。」


「ちょ……!あの不気味な町を調べるって、無闇に動かないのがいいんじゃないっすか天草さん?」


「まず一番に考えなければならないのは僕たちの安全だよ邦枝さん。何が起こったとか帰る方法を考えるとかはその次。そしてそのためには現地調査と僕たち個人個人の状況把握が必須だよ。」


 邦枝と同じに町を忌まわしく眺めていた他のやつらが安全という単語に同化されたのか「確かに……」と口を集めた。俺もそうだ。わけわかんない状況で安全を最優先にするという言葉は何よりも魅力的に聞こえる。


 5人は急いでそれぞれのクラスに戻りいまだに教室に残っている生徒たちを連れてきた。その中にはビビッて教室から出ない学生もいたんだけど殴ったり脅迫して無理やり引っ張り出した。


 全部出てくるのを待っていた天草が少し声を高めながら言った。


「全部出た?じゃあ今から5人ずつ組みを組んであの町を調べに行くよ。指揮はここにいる大門勝己君と新月司君に任すからできるかぎり二人の指示についてきてくれ。そして僕と空木夢子君、そのほか女子生徒たちの何人はここに残って周りと教室を調べる。もしかしたらこんなことが起こった原因が見つかるかもしれないからな。建物を調べるときには必ず一人以上は外に待機させてね。呼んだら聞けるように。」


 最後に彼は「大丈夫。みんなで帰れる。」と堂々と笑って見せた。それを見てお互いの顔を見つめた生徒たちは、一人二人組を組み始める。人間は不安と恐怖という闇に閉じ込められたら誰かに頼ろうとする。特に強力な力を持ってる存在に命令されたら普段そいつをどう思っていただろうがその指示に必ず従うことになるのだ。


 俺に友達はなかったので一面識もないほかのクラスの奴らと組みを組むことになった。最小限の武装をしろという新月の指示に合わせて掃除箱からモップを取り出したりカッターナイフを身に着ける。

 教室は壁の少し高いところ、つまり絶壁のところに位置していた。幸い適当に落ちて降りる道があったので指揮官であるカヅと新月を先頭に町へと降りることにした。


『はいどうも~ 聞こえますか~?』


「「「「「「…………!!!!!」」」」」」


 それは、本当に突然聞こえてきた声だった。

 武器を持ったカヅと新月の顔に一気に警戒心が上がって俺も体を最大限に緊張させて周りを見てみた。するとさっきの声がー それからまた聞こえてきた。


『表情を見たところみんなちゃんと聞こえてるみたいだね。もう~ じゃあ返事ぐらいしてくれよ行儀悪いな。』


 言葉遣いも声も、少し幼い少年て感じが強かった。行儀とか言ってるけど、怒ったふりしながらふざけてるにしか聞こえない。

 それとは逆に俺が知らない誰かの声が緊張しながら訊いた。


「だ、誰ですかあなたは?」


『ん?俺様?俺様はGOD。今お前たちが立ってる世界の創造主だ。』


 ……やはり空の声はふざけてることにしか聞こえなかった。状況もそうだし何もない空から声が聞こえてくるのが奇妙なのにも全然シリアスな感じがしない。

 空の声は誰かが急き立てる前に先に言い続けた。


『お前たちはいわば異世界召喚てことをされたんだ。聞いたことあるだろう?地球とは別の世界に召喚されて冒険したりスローライフを送ったりする話。それだよそれ。』


 やはりそういうことだったのか……

 なんとなくそうなんじゃないかと思ったけど、まさか本当に異世界召喚とは。呆れて言葉も出ない。


「異世界召喚…… 聞いたことある。オタクたちの間で流行ってるって。」


「うん…… 私も…… モンスターとか魔法とかそういうものだよね?」


 いろんなコミュニティーに運ばれたせいかオタクじゃない一般生徒たちもみんな知ってるみたいだった。

 ただモンスターとか魔法とか地球とは違う世界とか短編的なキーワードしか知らなくて状況を正確に把握したわけじゃないみたいだ。

 空の声はそんな彼らを気にせずもうちょっとテンションが上がった声で話を続けた。


『その中でも俺様の世界はダンジョン攻略が目的であるゲームファンタジー世界だ!名付けてDEVIL TAKER!地上を含めて14つの階層を攻略する魔法あり剣ありの素晴らしい世界だ。面白そうでしょ?でしょでしょ?』


「D、DEVIL TAKERって…… まさかあのDEVIL TAKER?!RPGのくそと呼ばれる?!」


 今度は俺が知ってる声― 煙陽斗けむりひろとがとがった声を高めて興奮した。


 もじゃもじゃした頭には中途半端にワックスが塗られていた。いもみたいな顔に太った体型。先が垂れた目に眼鏡をかけている彼はクラスが変わる前までは今の俺みたいにカヅたちにイジメをされていた。


 知ってる限り俺以上にオタク力が高い彼の叫びに、体がビクンと震えた。


 DEVIL TAKER!確か俺も昔やったことがあるゲームだった。


 2年ほど前に日本から発売されたDEVIL TAKERは超リアルタイムと言って自由性と現実性が曲団的に高いオープンワールド形式のダンジョンRPGだ。


 ストーリはそのタイトル通りゲームのモンスター、つまり悪魔たちを摂取して強くなり12つのダンジョンを超えて最後の地下13階に到達することを目的としている。


 ゲームを始める時、選べる職業は剣士、ガンマン、マジシャン、盗賊、格闘家の五つで一定値のレベルとスキルに到達すれば一段階上位の職業を選択できるようになる。


 さっき言った通りDEVIL TAKERは自由度がかなり高い。地上1階の冒険家の町を除外すればプレイヤーはダンジョンの中でどんな行動でもとれる。例えば壁を壊して新しい道を開拓したり油に火をつけて爆発を起こしたり条件さえ満足させれば空を飛ぶことだってできる。


 ゲームのストーリも、操作感も、キャラの育成も満足感が高かったので俺はこのゲームが大好きだった。


 でも残念なことに…… DEVIL TAKERは1年でサービスを終了した。


 理由はこのゲームの一番の取り柄であって欠点でもある自由性と現実性のせいだった。


 DEVIL TAKERはステータスやレベル、スキルなどの基本的なシステムは他のRPGゲームと同じだけどそのほかにも空腹と乾き、睡眠ゲージ、ストレスゲージなどなどの人間としての生理現象まで再現しておいた。


 食べ物を食べなかったり、水を飲まなかったり、寝なかったりすればステミナが落ちて死ぬ。ストレスゲージが上がって操作がきかなかった時にはこのゲームが大好きな俺でさえ眉をひそめることになってた。


 それにゲーム内の時間は現実と全く同じだった。悪魔たちは活動時間といって夜や昼を分けて活動する奴らがいたので朝に仕事がある会社員や学生としてはつかみにくいやつらが多かったのだ。


 そのほかにもちゃんと成果を出さない以上スキルレベルが上がらないとか、空気読めず多量で迫ってくるモンスターたちとか、死んだらキャラを作り直さなければならないとか……


 いわゆる無理ゲーだった。難易度自体もバカげているしストレスを許さない今の社会でDEVIL TAKERは流行るには無理があったのだ。


 だからDEVIL TAKERというゲームを知ってる人は少ないし知ってたとしても大半のゲーマたちは煙みたいにくそゲーと覚えている。


『お前らは今からこの世界を楽しんでもらう。目標は地下13階にいる俺様を捜すということだ。』


「ふ、ふざけるな!!」


 叫んだのはうちのクラスの委員長、山田やまだだった。スポーツも勉強もトップクラスである彼は唯一うちのクラスの中でカヅに文句を言える存在だった。


「なんで我々がそんなことに付き合わなければならないんだ!神だか中2だか知らんけど俺はそんなことやる気ないから今すぐ元の世界に帰せ!」


「そ、そうだそうだ……..!」


「お願いだからうちに帰してください……!」


 ほかのクラスからも一人ずつ文句を吐露する。もしかして言うことを聞いてくれるんじゃないか、期待。被害者は俺だ。要求を聞け、怒り。私は弱者だ泣きながら頼むしかない、順応。

 みんなそれぞれの方法でこのバカげた状況を拒否しようとしていた。

 だが、


『どうやら俺様の話を誤解した人たちがいるみたいだね。俺様は別に、お前らに選択肢を上げてるわけじゃないんだぜ?』


「………あ?」


 それは、一瞬にして起きたことだった。


 突然空中に現れた刀。その数々が、山田の足を、手を、腕を、背中を腹をのどを、すべて貫いた。


「あ、あれ……??なに……?こ……れ……」


 その言葉を最後に、倒れた山田の傷から血が漏れ出て、二度と彼は動けなくようになった。

 そこにいた誰かが反応する前に、生臭い血の匂いが鼻を超えて肺まで届く。


「ギャアアアアアアア!??!?!」


 順番のない悲鳴が響き渡る。山田から離れようつするやつ、悲鳴を上げてはくやつ、気絶してその場に倒れるやつ。文字通りパニックに落ちた。

 カヅと新月の顔は真っ蒼になって夢子もゲロを吐きながら座り込む。あの天草ですら驚愕した顔を隠しきれなかった。


 そんな俺たちをバカにするかのように空の声は言った。


『俺様はお前らに選択肢を上げてるわけじゃない。やれって命令してるんだ。だってみたいもん~ お前らがこの世界を冒険して、死ぬざまを。モンスターにやられて悲鳴を上げたり、馬鹿同士で裏切ってざまぁになったり、絶望に落ちて自殺したり。俺様はお前らのそんな無様が見たいんだ。それを見ながらストレスをフリーたいんだ。だって俺様は、この世界の神様なんだもん。この世界で一番偉い存在なんだもん。だから俺様は、こんなことしていいんだ。』


 みんなの顔に絶望と恐怖が広がる。その中には小便を漏らす人だっていた。


 それを見て空の声は思いっきり笑った。息をする方法を忘れたかのような、悲鳴のようなその笑い声は、いつまでも止まらなかった。

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