おるめた!

@samayouyoroi

第1話 その少年、極悪につき

「でっかい家」

シオンは呆れたような口ぶりでそう言ったが、羨ましさを完全には隠しきることはできなかった。それはリオンも同じで、むしろ直接的に妬ましさを口にした。


「オークのくせになあ」

シオンとリオンは二人で共同生活をしており、この眼前のオークの邸宅の離れの半分もないような部屋で生活しているのだ。


昔、北方からやってきたオーク族は蛮族と言われていたが、たとえ蛮族だって頭のいいものはちゃんといる。彼らの被服センスそのものは壊滅的だが、その素材となる革加工技術は極めて優れており、それに目をつけた何人かのオークは仲間を職工として雇って一大財産を築いたものもいるのだ。


オークの邸宅は巨大なログハウスであり、その荒っぽさが逆にシオンとリオンに秘密基地のような格好良さを感じさせていた。


「あれだけ儲かってりゃ恵まれない俺らに多少は恵んでくれてもいいだろうよ」

というかそんな受け身な理由でここに来たわけではないのだ。


---


シオンが鍵穴にピックを差し込むとすぐに扉が開いた。剣術も魔法もからっきしだがこういうことには強い。


「お前やっぱりシーフのほうがいいんじゃね?」

リオンが小声で呆れたように言う。静かにしろって。


開いた扉をシオンが抜き足差し足で、でも素早く移動する。リオンはまだ見張りとして残ってる。獲物が宝石のようなものならシオン一人でいいのだが、なめし革をなるべく大量に「借りる」ためには大柄なリオンもいたほうがいいのだ。


とはいえこの友は大柄な分だけ敏捷さに欠ける。従ってシオンは先行して安全を確認しながらリオンを誘導するしかなかった。


シオンは数歩進んで安全を確認してはリオンに合図をして誘導する。途中で大きな足音を立てたときは殺してやろうかと思った。もちろん実際に戦えば敵わないが。


やっとの事で無事に蔵まで到着したらそこには金銀財宝、になるかも知れないなめし革が溢れかえっていた。先程の殺意なんかすっかり忘れて二人で肘を交わす。


二人は無言でせっせとなめし革を丸めて背嚢に入れた。大切な大切な商品である。商品を大事にしない人間にサクセスなどないのだ。


行動の妨げにならない程度になめし革をいれると、交互に背中をむけて背嚢をしっかりとしばる。さてここからはもう隠密行動は必要ない。


がしゃん!


ガラス窓をぶちやぶって二人は一目散に逃げはじめた。


オークの身体は強靭で、戦闘訓練などしていない普通のヒューマンならまず敵わないが、その分彼らは敏捷性に欠ける。過去の経験からこういう時はむしろ相手を驚かせてそのスキに逃げたほうが良かった。


なんだなんだ!?

泥棒か!?

警邏を呼べ!


オークが蛮族と呼ばれていたのはもう5世代も昔の事である。今やしっかり標準語と常識を身に着けた彼らは、土着の非常識なヒューマンの少年たちの蛮行に大いに混乱するのであった。

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