夢の中
真っ黒に垂れ込めた重たそうな雲が今にも空から落ちてきそうだ。生暖かい風が彼女の頬を撫でる。見知らぬ細い道を彼女は急いでいる。
「雨が降りそう。急がなくちゃ」彼女は家を目指して走っているが、走っても走っても見覚えのある道にたどりつかない。やがて、大粒の雨が降り出した。彼女のたおやかな長い黒髪はみるみる湿った一枚の柔らかな布の様になった。
「どこかで雨宿り出来ないかな」彼女は辺りに目を走らせる。細い道の少し先に細長い蔦の絡まったグレーのコンクリートの建物が見えてきた。
空が光る。雷鳴が轟く。恐怖に身をすくめながら彼女はやっとその建物の入り口にたどり着くことか出来た。
入り口のドアをくぐるとすぐ側にもう一枚小さめの古びたドアがある。彼女は無意識にそのドアノブに手をかけそっとひねった。鍵は掛かっていない。
「あのぅ、誰か居ませんか?」彼女は恐る恐る声をかけた。誰も居ない。中に入ると黒いカーテンが幾重にもかけられ、小洒落た小さい机と椅子が部屋の真ん中に置かれている。彼女は走り疲れ、その椅子に座った。濡れたままだ。しばらくすると、カーテンの奥から細身の40くらいの女性が出てきた。顔にはベールをかけ、ジプシーの様なだらんとした格好の黒いドレスを着ている。彼女は戸惑った。
「あの、ごっごめんなさい。すごい雨が降ってきちゃって、雨宿りさせてもらおうと・・・。つい、入ってしまいました」彼女はぺこりと勢いよく頭を下げる。
「いらっしゃい」とその女性。
「良いのよ。あなたを待っていたのだから」
女性の目の前には、綺麗なガラスの玉が。透き通っていて、とても綺麗だ。彼女はうっとりとその玉を眺めていた。
「綺麗なガラスですね」
「ガラスではないのよ。これは水晶。過去が見えるのよ。見てみる?」女性が言う。彼女は顔を近づけた。
「⚪︎⚪︎マラサンフレキッドノソワカ〜」はっきりとは分からないが呪文とも言葉ともにつかわしく無い何かを唱え、水晶を両手で優しく撫でている。何か映っているようだ。彼女はそっと覗き込む。
「景色が見える。・・・緑。そう、緑の木々の中に赤い着物の女性が・・・。こちらを見ている。何か言っている。わらわは鶴。あれは・・真の・・ではないと言っている様だ」玉の中は少しばかりの靄がかかり、彼女には、はっきりとは聞き取れなかった。
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