2-C 『便せんが裏紙となりくずかごへ紙飛行機にならないままで』

 練習を終えて。

「駅まで行こっか」

 歌奈がみなを引き連れてスタジオを出ると、風が強くいた。はるが「さみーーー」と声を上げる。

「スタジオ、なかなかないからなあ。駅の辺りは先客がいること多いし」

「ちょっと遠いのが難点だよねえ。歌奈、一応年明けに利用できそうなとこ、ピックアップしとく」

あん、助かる……!」

 だん使う路線ではなく、その手前にあるふみきり。先に向かったあんはるわたりかけたところで、しやだんが下り始めた。

っち、ストップ」

「う、うん」

――二人きり。

 意識してしまうと、かたがこわばる。それでも、あんが『わざとこの道を選んだんだ』と、今月に入ってからのこのルートの『秘密』を教えてくれた。とっくに、この気持ちがばれていることは知っている。このふみきりの向こうにあるコロッケ屋で、『はるへのけが増えた』とあんが苦笑いしていたのには、つられて笑ってしまったが。

「あの、そういえば、なんだけど」

「うん?」

「年末年始で、作詞してくる」

 電車が通りかかる。『すぐにしやだんは上がるだろう』と、歌奈は親指を立てて『OK』のサイン。その間に、『どうしても書きたい歌詞があって』というの言葉は届いていなかったが。

 しやだんが上がると、歌奈が前へ出た。その背中しに、あんが小さく『だいじようそう?』と指で輪っかを作ると、ずかしそうにそう返した。


 冬休みに入ってしばらく。作詞の作業はていたいしていた。

「書きたいフレーズは出来てるのに、後が思いつかない……」

 歌奈に聞くのは、何を書こうとしてるかバレたくない。あんはこのことを相談したときに『言葉選びはアドバイスできるけど』とやんわり断られてしまった。

「どうしよう……」

 その時。

「しーちゃん、入っていい?」

 ノックの直後に聞こえた声。いつしゆんよぎって、けようかと思っていた人。

つかさお姉ちゃん……いいよ」

「おじやします」

 司が中学生になってからは、冬休みにしんせき一同で集まるとき、両親が祖父母の家で、つかさの家にまることになっていた。だから、来るのは分かっていたけれど。

 その人は、目立つ方ではなかったけれど、れいな人だ。

「歌奈ちゃんから聞いたよ、私の代わりにバンドに入ったって」

――胸がざわざわする。もちろん、悪気はないはずだけど。

「『星の忘れ物』いてさ……その、歌奈ちゃんへのおびじゃないけど、しーちゃんに合わせた作詞法を伝授しようと思って」

「えっ、別に……いや、その。ちょっと思ってたから、つかさお姉ちゃんがいいなら……」

 きっと、つかさも、おもかべたフレーズと同じところをおもかべたのだろう。

――夢の中の忘れ物を あなたの中のキラキラを

――分けてほしいの あこがれだから

――大切だから

「しーちゃん?」

「あっ、うん」

 ぼーっとしていたに、つかさが続ける。

「その作詞法だけど……しーちゃんの得意な『短歌』を生かそう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る