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「お兄さん、どうして泣いてるの? 何か悲しいことでもあった?」



 少年の言葉を僕は、、聞いていた。

 少年は、他には何も言ってこない。

何もこない。


 これほどまでに、嬉しいことがあるだろうか……


 少年は、そんな僕を見て首を傾げている。



「あぁ、ごめんよ。ちょっと……。堪え切れなくて……」



 そう言って、僕は涙を拭き取る。

 そしてようやく、冷静になって考えてみる。


 どうして、こんな事が起きているのだろう?

 まず、この少年は、どうしてこんな真夜中に、こんな場所に、一人でいるのだろう?



「あの……。君は誰だい?」


「僕? 僕の名前は弓弦ゆづる。お兄さんは?」


「僕かい? 僕の名前は……。いや、そんなことより、君はどうしてこんなところに一人でいる? もう真夜中だし、家に帰ってないと、お父さんやお母さんが心配するだろう?」



 僕は、嫌に年上ぶってそう言った。



「いいんだ」



 少年は首を横に振る。



「いいんだって、良くないよ。家まで送るから、一緒に行こう」


「いいんだ。そんなことより……。お兄さん、僕のことを必要としてるでしょ?」



 少年の言葉に、僕は固まる。


 正直なところ、こんなに穏やかな気持ちになれたのは久し振りだ。

 きっと、普通の会話ができているからだろう。

それは明らかだ。


 だけど、こんな小さな子どもに、いったい何ができるというのか……。

 それに、どうして、この少年のは、聴こえてこないのだろう?



「お兄さん。僕は、お兄さんがどうしてここにいて、どうして自殺しようとしてるのか、その理由を知りたいんだ」



 少年の言葉に、僕は戸惑う。


 まさか、この少年は、僕と同じように……?

 いや、同じなら、僕の考えていることは全て……

 でもどうして、少年の声は……


 頭の中が混乱していく。

 右手に握りしめている赤い頭巾を、もう一度被ってみようか。

そうしたら……?



「それは、もう二度と被らない方がいいと思うよ。お兄さんも、わかってるんでしょ?」



 少年の言葉に、僕の体が震え始める。


 この頭巾のせいで僕は……、僕の人生は、めちゃくちゃに……



「お兄さん、教えて? お兄さんの身に何が起こったのか、僕に聞かせて?」



 少年は、優しい声でそう言った。


 体の震えが止まらない。

また、涙が流れてきそうだ。


 この目の前の少年に、いったい何ができるのだろうか?

 僕の身に起こった事……、恐ろしい、出来事……

それを今ここで話したからといって、何が変わるわけでもない。

 でも、僕は……



「あれは……、二年前の夏だった」

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