第4章 花火の下で

 薬品の匂い、機械音。気がつけばそこは病室だった。母が私に気づき担当医を呼んでいた。そのあと先生がやって来ていろいろな検査を受けた。

 どうやら私はフューチャーフォレストに遊びに行った次の日の朝、リビングで倒れていたらしい。母が見つけてくれた時、私は意識不明だったらしくそのまま私は3日も眠っていたらしい。

 しばらくしてももが見舞いにやってきた。私の大好きなお花を持って来てくれた。綺麗に咲くお花はまるで私を元気付けてくれているかのようだった。母の話によるとももと健斗君は毎日お見舞いに来てくれていたみたいだった。ももは用事があるらしくすぐ帰ってしまった。母も一旦家に帰ると言って部屋を出て行ってしまった。さっきまで賑やかだった病室もすっかり静かになってしまった。


「コンコン」


誰かが来た。健斗君だった。


「目が覚めてよかった」


安堵の表情でこっちを見ていた。沈黙の時間が続いた。


「この間はごめんね。あの後バスの中でも家に帰ってからもずっと健斗君の言葉が忘れられなくて色々考えたんだけど、私でいいならお願いします。」


 なんでこの言葉が最初に出たのかはわからない。でも自分の中ですごく重要なことだったのだろう。無意識にその言葉が出ていた。彼は戸惑った顔でこっちを見ていたが次第に嬉しそうな顔をしていた。

 それから私たちのお付き合いは始まった。彼はそれからも毎日見舞いに来てくれて、何もない病室も彼がいると明るくなって楽しい気持ちになった。気付いたら今まで「健斗君」だった呼び方も「健斗」に変わっていた。

 なかなか容体が安定せず、あっという間に入院してから2週間も経っていた。主治医が言うには今週は安定しているらしい。そろそろ退院しても平気らしいので今週の土曜日外出許可をもらうことにした。今はちょうど夏祭りシーズンでここ最近はずっと花火の音が聞こえる。私たちは病室で待ち合わせて会場に行くことにした。

 土曜日の朝。朝から明るい1日だった。夜が待ち遠しくてルンルン気分だった。17:00までは病室でおしゃべりする約束になっている。


「コンコン」


ドアがなり、健斗が入ってきた。彼はいつもの明るい声で私に話しかけてくれた。


「おはよう!調子はどう?」

「もうすっかり元気!来週の土曜日も外出許可取れそうだからフューチャーフォレスト行こうよ!ダメかな?」

「今日外出して何も問題がなくて先生から許可取れたらね。」

「ありがとう」


それからは病室で一緒にウノなどをして時間を過ごした。

 やがて出発時間になり、花火会場へと向かった。約2週間ぶりに外の空気を吸った。やはり、外は気持ちいいなと身に染みて感じた。

 今年も会場は満員で歩けないぐらいだった。それでも暗い空に色とりどりに咲く花は美しかった。自分に勇気を与えてくれているみたいだった。そんな美しい花も一瞬にして消えてしまう。そんなことを考えながら私は健斗の腕をしっかりと掴み逸れないようにしていた。

 りんご飴、綿飴久しぶりに食べるものばかりだった。やっと空いてるところを見つけて座ることができた。祭りに来るのは健斗も久しぶりだったみたいで彼の笑顔も素敵だった。

 花火がすべて打ち上がっても周りの人はまだだこれからだというようにはしゃぎ回っていた。


 私たちは病院に戻った。また1日楽しいことが過ぎていった。

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