ある日曜日の昼下がり
玉美 - tamami-
1
これは、ある日曜日の昼下がりの出来事。
ティッシュペーパーがなくなった。
そんな理由で、俺はぶらぶらと買い出しの為に外を歩いていた。
近くのスーパーまでは、河原の土手を歩いて行けば10分もかからない。
正直、ティッシュペーパーのためだけに外出するのもアホらしいっちゃアホらしかったが……
季節的にもティッシュペーパーは必需品だし、致し方ないだろう。
寒空の下、ろくな防寒具も身につけてない俺は、ピューっと吹いた北風に身を縮めた。
その時、視界の端に、妙なものが映り込んだ。
それは、およそ普通の人なら見えないだろうもの。
河原の土手にたたずむ一人の少女。
ただし、その姿……、体は、透けていた。
あ~、ん~、見なかったことにしよう。
俺がそう思って視線をずらすより先に、少女がこちらをパッと振り向いてしまい、バッチリと、完全に目が合ってしまった。
あ~……、しまったな。
経験上、こういう時に目が合うとろくな事にならないのだ。
しかし……、今日は少し違っていた。
少女は俺と目が合ったにもかかわらず、つまらなさそうな顔をしただけで、くるりとそっぽを向いたのだ。
あれ? いいのか??
いいんならいいんだ。
俺はゆっくりと歩を進めて、少女のすぐ横を通り過ぎて行った。
……が、なぜか後ろ髪が引かれる思いに駆られて、振り返ると、やはり少女がこちらを見ていた。
うん……、そうだよね、うんうん。
自分を納得させるように数回頷いて、俺は少女に歩み寄り、話しかけた。
「こんにちは、どうしたの?」
この状況を客観的に見れば、俺は完全にやばい男だろう。
目の前にいる少女はおそらく、普通の人には見えない存在。
即ち、今この瞬間の俺を見た人は、俺の事を、誰もいない空間に向かって独り言を言っているやばい奴、と思うに違いないのだ。
まぁ仮に、この少女が見えていたとしても、自分より随分年下の知らない女の子に声をかけているやばい奴、だと思われることは確実だけどもね。
「おじさん、私が見えるの?」
おじさん、と呼ばれた事に若干のショックを受けながらも、グッと堪えて、できるだけにこやかな表情で頷く俺。
「そっか……。あ、あのね、お願い聞いてくれる?」
少女は遠慮がちにそう言った。
うん、そうなるよね。
そんな予感はしてたんだよ。
少女は、見た感じだと、小学校低学年ほどの年齢だろう。
まだ、世の中の汚い部分なんて全く知らない、純粋な年頃だ。
その無垢な瞳に見つめられちゃ、断るわけにもいかない。
「いいよ、俺にできる事ならね」
俺の言葉に、少女はパッと笑顔になった。
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