第48話「命懸けの」
バシッ バシッ
シュリンクは両腕をスライム状に変形させ、鞭のように振り回す。タコを思わせるうねりの前に、卓夫達はそれぞれの武器で応戦し、攻撃を受け止める。
「キモッ、せっかくの美人なのに台無しでござる!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「褒めてないでござる!!!」
ザッ
卓夫はヤケドシソードを横一文字に振る。業火は激しく燃え上がりながら、シュリンクの右腕を瞬時に切り裂く。右腕は勢いよくぶっ飛び、ゴミのように地面に転がり落ちる。対してシュリンクは痛みを感じる様子はなく、余裕の笑みを崩さない。
バッ
「再生が早い……」
切断された右腕の断面から、新たな腕が即座に生える。ハイ・ゲースティーであるため、手足を何度切断しようが、内臓を何度破壊しようが、攻撃は全て無意味である。ファシムの時と同様に、コアを破壊しない限り絶命しない。
「卓夫! 香李! ダリア! 俺達で倒すぞ!」
「うむ!」
「えぇ!」
「う、うん!」
ローダンの掛け声を受け止め、卓夫達は各々再度武器を構える。夢達は上階で待ち受けているであろう強敵の元へ向かい、それ以外の仲間はガイア城の門前で雑魚共の相手をしている。よって、シュリンクは卓夫達4人で倒さなければいけない。
「威勢がいいこと……それがどれだけ持つかしら!」
シュッ
シュリンクは体全体をスライム状に変化させ、目にも止まらぬ速さで卓夫達へ接近する。重ね重ねの特訓によって動体視力はある程度鍛えられたが、それでも反応が遅れてしまうほどの速度の動きに翻弄する。
「はっ!」
ガッ!
香李はビコビコハンマーを振り下ろし、シュリンクのスライム状の左腕を地面に押さえつける。敵の鞭打ち攻撃は命を奪われるほどではないが、それでも諸に食らうと骨折を招くほどの威力は備わっている。攻撃を無効化しつつ、コアを探さなければいけない。
ズズズズズ……
「来るぞ! 気を付けろ!」
「え? な、何でござるか!?」
突如、シュリンクの両腕が詰め物を入れたようにブクブクに膨れ上がる。彼女は両腕を胸の前で交差させ、不敵な笑みを浮かべる。
「グルーショット!!!」
バババババッ
「のわぁっ!?」
「うっ!」
シュリンクの腕から無数のスライムの弾丸が放たれる。卓夫は間一髪かわすことができたが、香李は左腕を巻き取られてしまい、腕だけ地面に貼り付けられる。粘着性が凄まじく、力ずくで剥がそうとしてもびくともしない。
ザッ
運良くローダンが駆け付け、小型ナイフで腕からスライムを切り離してくれた。
「あ、ありがとう……」
「気を抜くなよ。あいつの体は特殊だ」
「ローダン! くぅ……香李ちゃんに良いところみせたかったのに!」
素早い動きと強靭な攻撃力だけでなく、厄介な術も持ち合わせている。動きを封じられたとしても、仲間に救われて脱出は可能である。しかし、それをいつまでも繰り返していても、無駄に体力を消費するだけだ。
「マジックダウン!!!」
「くっ……」
ダリアが手をかざし、シュリンクに魔法を降り注ぐ。シュリンクは一瞬苦しんだような素振りを見せ、動きを止める。ダリアの補助魔法により、シュリンクの魔力が一時的に弱まったのだ。
「サンキュー! ダリア!」
ローダンはすかさず攻撃態勢に入る。物理攻撃では役に立てないため、ダリアは補佐に徹する。モンスターを弱体化させたり、仲間の魔力を底上げしたりすることで、戦闘に貢献してきた。
そんな彼女のひたむきな姿とさりげない優しさに、ローダンは支えられてきた。
ザッ
ローダンがシュリンクの左腕を切断する。
「見えた!」
ローダンのナイフが作った断面により、シュリンクのコアが露出した。緑色の球体の結晶が、スライム状の体から半分ほど顔を出している。スライム状になった体は透明であるため、外からコアの位置が透けて見える。
「ほほう……ブラが透けるよりもラッキーでござるな!!!」
ゴォォォ……
卓夫もローダンに続き、ヤケドシソードに炎をまとわせて攻撃を仕掛ける。シュリンクは異常な速度で左腕を再生させたが、体内のコアは透けて丸見えだ。格好の的目掛けて、卓夫は燃え盛る刀身を振り下ろす。
グチャッ
「……へ?」
卓夫は困惑した。左腕の関節部に埋め込まれたコアを切断しようと、刀を振り切った。しかし、刀はコアには当たらずに左腕を再び切断するだけに終わった。固形物を破壊する感触が伝わってこず、恐ろしい違和感が卓夫の腕をくすぶる。
「フフフ……」
シュリンクは今度は右腕を掲げた。なんと、コアは右腕の手首辺りに移動していた。結晶がズズズと右腕から体外へ顔を出す。
「あいつ、まさか!」
続いてローダンがナイフを振り下ろす。コアに狙いを定め、右腕を確実に切断する。しかし、コアは傷付くことなく、右腕内部から姿を消す。
「なっ、あやつのコア……移動するのでござるか!?」
「ご名答、どれだけ攻撃を仕掛けても無駄よ」
コアはシュリンクの顔面に移動していた。無理やり顔面にめり込ませているため、目玉や鼻、口が歪み、恐ろしい形相を形成する。福笑いのようにバラバラになったシュリンクの顔の部位を眺め、卓夫達は坊勢と立ち尽くした。
瞬時に再生するスライム状の体。その体内を高速で移動することができるコア。狙いを定めて破壊しようにも、瞬時に弱点がズレて攻撃を無効化される。
「さぁ、次はどうやって遊んでくれるのかしら!!!」
バシッ バシッ
シュリンクは再び腕を鞭のようにしならせ、打ち付けてきた。彼女自身の移動速度も尋常ではないため、すぐさま防戦一方な状態へと追い込まれる。
コアを破壊すれば、即方が付く。相手の弱点が分かりやすく姿を現している。にも関わらず、その弱点がおぞましい速さで逃げていく。実にもどかしい戦闘だ。
「ぐほっ!?」
卓夫が背中を強く叩かれる。シュリンクのむち打ち攻撃は即死技ではないが、骨を砕くほどの威力は十分に備わっている。このままじわじわと傷を重ねていては、確実にこちらの命の結晶が破壊される。
「フフフ……苦痛に悶えるその表情、そそるわねぇ……」
ハイ・ゲースティーとの戦闘は、まさに死と隣り合わせの命懸けの行為だった。
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