アミューズメント・ランデブー
KMT
序章「変なクラスメイト」
第1話「変なクラスメイト」
KMT『アミューズメント・ランデブー』
「ねぇねぇ
私は放課後にクラスメイトの親友二人と談笑する。目の前のスマフォに表示されていたのは、朗らかな笑顔を浮かべた男女がジェットコースターに乗っている画像だった。どうやらアミューズメントパークの公式サイトらしい。
ごめん、もう高校2年生なものだから、「遊園地」と呼ぶとちょっと幼稚臭く聞こえるかと思って、「アミューズメントパーク」って言っちゃった。別に言い方を変えても大してカッコ良くないのに。
「楽しそう……。
須未ちゃんがスマフォをスクロールすると、遊園地のお洒落なロゴが顔を出す。あ、もう「アミューズメントパーク」じゃ長いから「遊園地」って呼ぶね。
「ドリームアイランドパークよ! 愛知にある遊園地!」
私は須未ちゃんのスマフォに表示された遊園地の詳細を読む。ドリームアイランドパーク……愛知県花江市にある大型遊園地。年間800万人もの来場者を誇る有名な娯楽施設だ。
名前の通り島をモチーフにしており、エリアごとにそれぞれ違う世界観を持った島を模している。橋を渡ってエリアを移動し、世界観にちなんだアトラクションやショー、レストラン、その他特別なイベントを楽しむことができる……らしい。公式サイトの説明にそう書いてある。
「へぇ~、いいね!」
「でしょ!? 一緒に行こうよ~!」
須未ちゃんはおもちゃをねだる子供のように私を誘う。遊園地かぁ……小さい頃は親によく連れてってもらったけど、長らく行ってないからいいかも。面白そう。
「ねぇ、
「えぇぇ……」
隣にいた桃果ちゃんはめんどくさがる。でも今の嫌がり方……眉と口角の下がり具合と声の調子から察するに、付いてきてくれるパターンだ。優しいなぁ。
「んじゃ決まり! 私チケット代のために、今週のクレープは我慢するから!」
「あら残念。じゃあ楓、私達二人だけで食べに行きましょ」
「あ、ズルい! 私も食べる~!」
桃果ちゃんが私の肩に手を乗せ、抱き寄せる。須未ちゃんが大きく目を見開いて泣きつく。それこそまさにおもちゃをねだる子供のように。我慢するって言ったのに……1分も持たなかったや。
「あはは……」
私は苦笑いしながら、泣きつく娘をよしよしとあやす。そう、私達三人はいつでも一緒。遊ぶのも勉強するのも、何をするにしても一緒の三人組。
元気いっぱいでムードメーカーな
「行くならさっさと行きましょ!」
「あんた、チケット代残せるの?」
「……楓、奢って♪」
「楓を頼るな!」
桃果ちゃんからツッコミを食らう須未ちゃん。今日も私は須未ちゃんのクレープ代を出してあげることにした。
私、
あぁ……私、幸せだなぁ……。
「おい、見ろよあいつ」
すると、クラスメイトのひそひそ話が聞こえてきた。わざわざ見なくても、誰のことを言っているのかを私は知っている。
「今日も一人でいるな」
「あぁ、相変わらず惨めな奴」
「一人でいるのがカッコいいとか思ってんじゃね?(笑)」
それでも気になってしまい、クラスメイトの視線を追う。彼らが話しているのは、窓際の席でせっせと鞄片付けを進める一人の男子生徒のことだ。
濃い青色の髪をしていて、少し羽っ毛がある男の子だ。窓際の席に座っているから、彼の髪は日差しに照らされ、よく私の視界に映る。とても綺麗だ。
「もう宿題終わらせたのか」
「家でやればいいものを……」
「帰る前に終わらせるとか、真面目だねぇ」
クラスメイトの言葉からは称賛の意が一切感じられない。逆に馬鹿にしているのだ。
男子生徒はクラスメイトの話を無視し、黙々と宿題の英語のワークを学校鞄の中へとしまう。ホームルームが終わってチャイムが鳴ると同時に、彼は宿題に取りかかった。家に帰る前に終わらせているんだ。偉いなぁ。
「お、帰るぞ。足早ぇなぁ」
「今日も一人……か。ぼっちは辛いねぇ~」
「いつも何してんのか知らねぇけど、あぁいう社交性ねぇ奴はやっぱモテねぇわな」
鞄片付けを終えた彼は、逃げるように早足で教室を去る。
彼の名前は
「……」
彼が誰かと一緒に過ごしている様子を、一度も見たことがない。お友達がいない……と言ったら可哀想だけど、うまくクラスに馴染めていないようだ。いつもホームルームが終わって放課後になると、今みたいに早足で教室を出ていく。
その光景を眺めるクラスメイトは『変な奴』だの『ぼっち』だの『陰キャ』だの、好き勝手に罵倒する。彼は気に留めていないけど、私はいつもモヤモヤしながら聞いている。
「明石君……」
今はもう見えない彼の背中を思い返しながら、彼の名前を口にする。私とは正反対とも言える生き方をしている明石君。私は彼のことがなんとなく気になる。
「楓! 楓ったら!」
「あっ……」
須未ちゃんの声で我に返る。ずっと呼び掛けてくれていたんだ。気付かなかった。申し訳ないな。
「ごめんね」
「ほら、早くクレープ食べに行くよ!」
「須未、奢ってもらうんだからもう少し謙虚になりなさいよ……」
またもや桃果ちゃんのツッコミを食らいながら、須未ちゃんは苦笑いを浮かべて学校鞄を肩にかける。私も鞄片付けを済ませ、二人に付いていく。まだ明石君のことが気になって仕方ないけど、とりあえず今は忘れよう。
「うん! 行こ!」
でも、いつか……彼とも仲良くなれたらいいなぁ。そんなことを思いながら、私は須未ちゃんと桃果ちゃんと並び、学校を後にした。今日遊園地に行ってもいいくらいの、和かな午後の空気だった。
この時はまだ想像もしなかったなぁ。まさか明石君とあんなことを経験するなんて。十分幸せに満ちたと思っていた私の人生だけど、そんな私でもまだまだ知らないことがこの世界にはたくさんあった。
それを彼が教えてくれることを、この時の私は知るよしもなかったんだ。
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