呪文カフェに人だかり

 翌日、オカシオ伯爵のカフェが、とんでもないことに。人だかりができています。



「トマトケチャップのおパスタ! オニオンマシマシで!」


「わたしもそのおパスタよ! こちらはチーズマシマシ、カラメで!」


 なにやら、フラッペだかなんだかではなく、珍妙な呪文が増えていました。ラーメン屋じゃないんですからね。


「いやあ。クリスちゃん、大変だよぉ」


「どうなさったので?」


 店の前で列を整理しているオカシオ伯爵に、事情を聞きました。


「いやね、トマトパスタをうまそうに食べているお嬢様がいたっていうので、流行っちゃったんだよ」


 まあ、そんなご婦人が。


「さぞ、おいしそうに召し上がっていたんですね?」


「そりゃあもう、ズルズル! って。とんでもない勢いで食べていたらしいよ」


 ウル王女が、咳払いをなさいます。


「わたくし、そのような方にお一人だけ、心当たりがございますのですけれど」


 偶然ですね。わたしもですよ。


「とにかく、呪文も覚えてきましたことですし、まいりましょうよ。シスタークリス」


「そうですね」


 お店のカウンターで、ウル王女が先に注文をします。


「キャラメル・フラペチーノ・ウィズ・チョコレートソースを、ショートで。あと、トマトパスタをいただきますわ」


「かしこまりました。お連れの方は?」


「同じものを」


 これでいいんですよ。「同じものを」は、世界共通の呪文です。


「パスタはお時間がかかりますので、少々お待ちください」


「いつでも、お待ちしていましてよ」


 席を確保し、悠々と品が来るのを待つとしますか。


「それにしても」


 みなさん、やたら「ズゾゾ!」と音を立てていらっしゃいますねぇ。


「やはりパスタは、音を立てないとおいしくありませんよ」


「そう思ってらっしゃるのは、あなただけでしてよ」


 話をしていると、ようやくコーヒーとパスタが来ました。


 さっそくフラペチーノを……。


 ほほーう。罪深うまいっ。


「フラペチーノって、こういう味がするんですね」


 もっとシャキシャキしたものを想像していましたが、なるほど。ちゃんとドリンクです。ノドで溶けちゃうからでしょう。ふむふむ。

 このソースがほろ苦くて、コーヒーの味を邪魔しません。コーヒーにチョコって思っていましたが、このアクセントは素晴らしい。


 これは、パスタもはかどるというもの。


 この期に及んで、ウル王女がスプーンとフォークでお上品に食べようとしていました。


「ウル王女、ここはTPOをわきまえましょう」


「ですわね。あなたを見習って、豪快にまいりましょう」


 うんっ! 罪深うまい! ズゾゾ!


(マシマシ編 完) 

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