ピザは冷めても、なお罪の味

 ジターニャさんの生家は、あちこちにがたが来ています。これでは当会も時間の問題で、他の家屋にも被害が出てしまいます。


 つまり、コレ以上住んでも危険なだけ。


「だったら時間を巻き戻して、屋敷をきれいな頃に戻してみせるわ!」


 意を決して、ジターニャさんが懐中時計を手にします。


「それでは、この土地が穢れます。それに、ここまでの規模があるお屋敷を時間魔法で再現しようとして、どれだけの供物が必要かご存知でして」


 かなり真面目な口調で、ウル王女はジターニャさんを諭しました。


 時間操作は、究極のアンデッド魔法です。もし下手に扱えば、土地の地脈が狂い、現存する建物にも影響が及ぶでしょう。


「時間魔法なんて起こせば、我々はあなたを罪人として、退治せねばなりません」


「そ、そんな」


 肩を落とし、ジターニャさんがうなだれます。


「だったらどうすれば。住むところが、なくなってしまうなんて」


 本当に元気がありません。さっきまでのジターニャさんは、屋敷を取り戻そうとして息巻いていたのに。


「まあ。お腹が空いてはなにも考えられません。食べましょう」


「そうですよ。ピザもお持ちしましたし」


 わたしとゴロンさんで、ジターニャさんをはげましました。


「うん、罪深うまい」


「ホントですね。うまい」


 ジターニャさんの食欲を取り戻させようと、ゴロンさんが割と大げさ目にピザをいただきます。


 そんなお芝居なんてしなくても、ここのピザは絶品なのですけどね。トマトとチーズの配分が絶妙です。瑞々しすぎず、かといって、チーズが勝ちすぎることもありません。ピザという一つの個体として完成していました。


「さあ、みなさんもどうぞ」


 わたしが口火を切って、ウル王女もソナエさんも食べ始めます。


おいしいですわね。庶民的な味も、素敵ですわ」


 いつもは王宮のごちそうを食べている王女も、ピザに酔いしれていました。


厄払ヤバい! あー酒持ってくればよかったー」


 ソナエさんが嘆いていると、側にいたライスガスキーさんが手をたたきます。


「でしたら、来客用のワインを用意しましょう」


 ポンと魔法のように手からワインとグラスを召喚しました。


「気が利くねえ! ああ、これだ。最高だな」


 ソナエさんが、ワインを堪能しています。


「ほら、お食べください」


「……いいわ。あなたたちで食べなさいよ」


 まだ、ジターニャさんは食欲が回復しないようですね。


 我々は、どうお手伝いすれば。


「もういっちょ出前持ってきましょうか? あ、そうだ覚えてます、ワタシたちが初めてあった店のこと」


 ゴロンさんの言葉に、わたしは「……ああ!」と口を塞ぎました。


「あのー」


 わたしは手をあげます。


「おお、ピザを食べるマシーンになっているだけかと思ったぜ」


 いや、その方がわたしにとってはいいんですけどね。


「実は、アンデッドさんが安心して滞在できる場所に、心あたりがあるのです」

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