今夜はぜいたくに、寿司の罪

「シスター、本日はありがとうございました」


 看守さんに見送られ、わたしたちは帰ります。


 去り際、キャプテン・シーハーさんの顔を見ました。憑き物が取れたような顔をしていたのが、印象に残っています。


「あー、疲れました」


 わたしは伸びをしました。ほんとに疲れましたね。お腹も空いてきました。お昼を摂ってからの訪問でしたが、カロリーを一気に消耗しています。


「そう思っていました。なので、今夜は豪勢にいたしましょう」


 なんと、大将のお寿司を予約してくださったそうで。


「護衛の報酬は吹っ飛びますが、よろしくて?」

「さっそく参りましょう」

「ホントに現金な方ですね、あなたは」


 もともと、報酬のお金なんて受け取る気はありません。もらったところで教会の金庫入ることが確定ですからね。


 だったら、現物支給のほうがありがたいというもの。


 二人で馬車を走らせ、港まで急ぎます。


「お邪魔いたしますわ」


 ウル王女が、店にいる大将声をかけました。


「へい、らっしゃい! 今日はいいネタがありますよ」


 先に戻っていた大将が、お寿司を握っています。


 貸し切りとはいきませんが、お座敷を用意してくださっているとか。


「ここなら、あなたもひと目を気にしなくていいでしょ?」

「ありがとうございます」


 お寿司をいただけるなんて、夢のようです。ほとんど、想像するだけでしたから。


「リーズナブルなお寿司なら、市場でもいただけますのよ」

「そうですね。海鮮丼もいただいたことがあります」


 ウル王女のお店にも、ミニサイズですが置いてありますね。


「とにかく、今日は豪華に行きましょうか」

「はい。存分に、罪を実感したしましょう。ウル王女」


 来ましたよ、お寿司が。お吸い物とともに。


「ゲタに乗せて、用意されるのですね?」


 白木のゲタに、豪華なお寿司が乗っています。


「湿度調節のためですわ。では、いただきましょうか」


 そういきたいのですが、どれから食べるか迷いますね。


「オーソドックスに行くなら、この赤身なんていかがでしょう」


 マグロの赤身を、王女はお箸で丁寧に掴みました。


「わたしも、王女にならいましょう」


 いただきます。


「おおおおおお、罪深うまい」


 お魚なのに、甘みがありますよ。魚の筋肉なんですよね? ほぐれ具合が、シャレになりません。このマッタリ濃厚な赤身。

 トロではないのに、このトロみはなんなんでしょう?


「続いて、サーモンを」


 サーモンは、お寿司でも安い食材だといいます。


 なのに、罪深うまい。


「これ、いいですね。一瞬で気に入りました」

「わたくしも、サーモンが一番おいしいと思うのです」


 ほのかに炙っているのが、脂を引き立てて実においしいです。


 トロは言うまでもなく罪深うまいですね。


 イカ、エビ、イクラなど、食べたことのある食材の中で、異彩を放っているものが。


「この茶色いのは、なんですか?」


 茶色なんて、罪深うまいに決まっていますが、謎の食材ですね。


「ウニですわ」


 説明されても、よくわかりません。とにかく、食べればわかるでしょう。


罪深うまい……おおう」


 思わず、気絶しそうになりました。


 いやあ、初めて食べましたが、こんな味なんですね。


「白子も参りましょう」

「王女、白子とは?」

「お聞きにならないほうが、あなたのためですわ」


 わかりました。では、食べて判断することにいたします。


「うん、罪深うまい!」

「ええ、おいしいですわ。これがアレですのね」

「アレとは?」

「なんでもありませんわ」


 知らないほうがいい世界もあるのですね。


 ごちそうさまでした。最高の夜です。お腹いっぱいというより、満たされた、という気がしますね。


「わたし、絶対に犯罪を犯したくありません」


 こんな料理を食べられないなら、一生潔白でいたいですね。


「そのお考えは、シスターとしてどうですの?」



(刑務所訪問編 完)

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