棺桶で来た
「決着は明日」と言われまして、拍子抜けのまま当日は帰らせてもらいました。
次の日です。待ちに待ったチートデイがやってきましたよ。
とはいえ、侯爵と決着をつけられませんでした。
一流ホテルのピザは、おあずけです。
なのに、わたしは再び魔王よりホテルに招待されました。
「ごきげんよう。またホテルから、オールドマン卿の屋敷へ飛べと?」
「まあ、見てなって。さて来たよ」
ドアホンが鳴ります。誰でしょう?
「で、出前ニャンです」
現れたのは、ゴロンさんです。
背負っているのは、大型のチルドボックスでした。
何が入っているのでしょう?
チルドボックスは、入れ子式になっていました。
出てきたのは、なんと棺桶ではありませんか。
「ありがとうございます。ゴロン様。こちらで結構です」
若い執事さんが、ゴロンさんに代金を支払いました。
「ぜえ、ぜえ。こちらこそ」
ゴロンさんは、帰ろうとします。
「待ってください」
わたしは、ゴロンさんを呼び止めました。
「よろしければ、あなたもお召し上がりになりますか?」
「いいんですか?」
「せっかくの機会ですし、それに一緒に食べたいです。いいですか、ローザ?」
ローザこと、魔王ドローレスにお伝えします。
「一緒にいるだけです。彼女の分は、わたしがお支払いします」
「え、悪いですよシスターッ!」
わたしが告げると、ゴロンさんが遠慮しました。
「いいよ。二人分くらいどうってことない。それに、こいつは金をもらうつもりもなさそうだ」
魔王ドローレスが、棺桶を蹴り飛ばします。なんて罰当たりな……。
ゴトゴト、と棺桶が動き出します。
「ひいいいい!」
ゴロンさんだけでなく、ドレミーさんもわたしにしがみつきました。
ドラゴンなのに、ちょっと情けないですね。
棺桶が、パカッと開きました。
「出たああああ!」
たしかに現れましたよ。
オールドマン侯爵が、このホテルに来たのです。
棺桶で。
「吾輩は朝日に弱いのでな。こうやって運んでもらったのである」
「人間というか、魔族を運んだのは初めてですよ」
「ふう。まことにご苦労だった。褒美として配達員の女よ、貴公の同席も許す。金の心配もいらぬ。吾輩の料理は、は基本タダである」
一輪のバラの花を、侯爵はゴロンさんの天パ頭にスッと差しました。
「あ、ありがとう、ございます」
「礼を言うのはこちらだぞ、マドモアゼル。重い棺桶をフロントにも頼らずよく運んでくれた。実に快適な運びであった。さぞ日頃から、丁寧な仕事を心得ているのだろう」
「恐縮です」
これは、
実に、キザったらしいですね。
こうやって女を口説くのでしょう。
でも、ちょっと待ってください。吾輩の料理ですって?
「もしかして、あなたが」
「いかにも、吾輩が――」
侯爵が語ろうとしたそのとき、ホテルのオーナーが飛んできました。
「先程、女性の悲鳴が聞こえましたが、なにごとで……おや! シェフ・ルドマンではありませんかな?」
「うむ。吾輩こそ闇の料理人、ルドマンである」
威張り散らしながら、オールドマン卿が名乗りました。
「挨拶が遅れてすまぬ」
「滅相もありません。いやはや、まさか伝説の
「彼らは特別な客人だ。吾輩自らがもてなしたい。厨房をお借りできるかな?」
「もちろんですとも! 期間限定キノコピザと、土鍋グラタンパスタの食材も、ご用意できております!」
え? まさか。
「このチラシに乗っているピザとグラタンパスタって、あなたが作るのですか?」
「作るも何も、吾輩の名が書いておろう?」
わたしは、チラシをくまなく探ります。
「ホントですシスター! ここに!」
ゴロンさんが、チラシに侯爵の名を見つけました。
『本日のおすすめ O・ルドマン特製キノコピザと大盛り土鍋グラタンパスタ 八キロ』
八キロ!?
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