フルーツパフェは、罪の味

 いよいよ、新メニューのお披露目となりました。


「見てみて、パフェですって!」

「おいしそう!」


 食品サンプルを見て、女子たちが色めき立っています。

 どれを食べようか相談しあっていました。


 正式名称は「パーフェクト」です。

「かわいくない」と子爵からケチが付き、略して「パフェ」と名付けられました。


 細長い三角錐グラスの中で、フルーツとチョコ、生クリームが層になっています。


 やはり、プロが作ると趣が違いますね。

 見た目もカラフルで、彩りからしてそそられます。


 お客に好きなトッピングを選ばせる手も、ありました。

 しかし、プロでなければここまで凝った趣向はできないでしょう。


 こう見えて、わたしも女の子です。

 デザートには目がありません。


「チョコバナナパフェ、タワーで」

「承知いたしました、お嬢様。お持ちいたします」


 すぐにメイドさんが、準備をしてくれました。


 ほお、周りのバナナが支柱になっていると。これで、大きいパフェが


 見た目のインパクトが、すさまじいですね。

 これは、期待できそうです。


 ホットコーヒーと共にいただきます。外は寒いですからね。


「いただきましょう」


 まずは、チョコが大量にかかったバナナから。


 おおおお、コレは罪深うまい。


 文句のつけようがありません。実に濃厚です。


 こんなデザートがこの世に誕生してしまったなんて。

 また、わたしが制作に加担してしまうとは。


 ひとくち食べただけで、ふわふわの生クリームと苦み走ったチョコソースがバナナと融合を果たします。


 その後も、タワーをガンガンに崩していきますよ。


 ああ、どこを食べても罪深うまい。

 砂糖少なめのコーヒーと、チョコソースを選んだのは正解でした。

 適度な苦味が、さらに食欲を増大させてくれます。

 いくらでも入りますね! 最高です。


 この細長い無糖ビスケットも、アクセントになっていますね。

 これにソフトクリームを漬けると……ああもう。

 語彙力が溶けました。何を言おうとしたのか、忘れてしまうほどです。


 甘いものを口にすると、人はこうもうっとりとしていまうのでしょうね。


 ですが、このサイズは本来、二人以上で食べるようです。


 わたしみたいに一人で平らげるような客はいません。


 いいのです。他のメンバーは各々のパフェで楽しんでいますから。


「いちごパフェいいわね。シャンパンに合うわ」

「このお抹茶東洋風パフェもいけるわよ。元が苦いから、ミックスジュースがマッチするわね」


 ヘルトさんはいちごを。子爵は抹茶をいただいています。


 甘いものが苦手と言っていた割に、自分たちなりの楽しみ方をなさっていました。


 もうすぐパフェも終わってしまいますが、最後の底の底にこそ、パフェの財宝が待っています。

 すべての甘みを濃縮した、コーンフレークですよ。

 これがなければ、パフェはしまりません。


 最後の一口まで、おいしくいただけました!


「ご満足いただけただろうか?」


 オーナーであるオカシオ伯爵が、わたしたちの席に来ます。


「おめでとうございます。大成功ですよこれは」

「ありがとう。きみたちのおかげだ」

「いえいえ。わたしは試食していただけですから」

「でも、キミの言葉や取材があったから、この成功に漕ぎ着けた」


 たしかに、伯爵だけではこうもヒットしなかったかも。

 なにかと難癖をつけて、企画自体が頓挫しかねませんでした。


「キミに教わったよ。何もかも経験から学ぶべきだってね」

「よかったです」


 こんなわたしでも、人のお役に立てたようですね。


「そこで、次のメニュー開発なんだけど……」

「またなんですか!? もう結構ですぅ!」


 さすがにこれ以上は、規約違反ですね。


 頭を悩ませたくはありません。

 しばらく、新メニュー開発はコリゴリですね。


 どうしても、というのなら、次は油ものでお願いしますよ。伯爵さん。


(フルーツパフェ編 完)

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