パーフェクトな商品開発

 伯爵は、モーリッツさんの考えがわかっていないようです。


「これで完璧じゃないのか? だってビュッフェだよね? セルフで映えるトッピングを自分で考えられるって最高じゃない?」


 わたしも、そう思っていました。


 けれど、モーリッツさんはさらに上のことを考えていたようです。


「たしかに、そういう売り込み方もありますね。しかし、素人では限界があるのですよ。普通な想像の域を出ない。そこで、『顧客の好み』を知って、あとはこちらで開発することにシフトしました」


 モーリッツさんは、スタッフに「もっとも多かったトッピングのパターン」をメモしてもらっていました。


「最も人気があったのは、チョコ、バナナ、いちごでした。だいたいこの三種が定番と言っていいでしょう。こちらをベースにして、より完璧なメニューへと近づけていく。名付けてパーフェクトを作り上げましょう」


 見た目にもおいしそうで、食べごたえもある。そんな「パーフェクト」なデザートを作るといいます。


 なんだか、楽しそうですね。


 パーフェクトへ近づけていくため、作っては食べ続けます。


 味見役は任せてくださいモグモグ。


「シスター、こちらなんてどうでしょう?」


 スタッフさんが、何作目かの試作品のパーフェクトをわたしの前に出しました。


「いいですね!」


 透明なグラスの中には、最も底にコーンフレーク、続いてソフトクリーム、カットされたいちご、次はメロンといった感じに、底から上へどんどんカラフルになっていますね。


「いいんだけど、もっとカット面をかわいくしよう。客の目を惹きつけるんだ」


 しかし、モーリッツさんには今ひとつだったようです。


「やってみます」


 いいと思ったんですけどねぇ。


「うっぷ。もうムリね」

「あたしも」


 辛党の子爵とヘルトさんは、早々とダウンしました。


 わたしはまだ平気ですね。


「こちらは?」


 なんだかものすごいパーフェクトがでてきましたよ。


 ガッツリバナナです。ゴリラが摂取する量も超えてしまう勢いです。こういうのを「バナナまるごと」というのでしょう。おそらく、一房使っていますね。


「いいですね!」


 おいしかったらなんでもいいので、わたしの意見は参考になりません。


「うん。迫力はあるけど、ボリュームもありすぎる。誰が食べるのか、想像してごらん」

「複数の女の子で、食べるイメージだったのですが」

「気持ちはわかるよ。それでも、かわいさからは遠ざかっちゃったかな。細いグラスで表現すべきデザートじゃない」

「わかりました」


 女性スタッフ渾身のチョコバナナパーフェクトは、あえなく撃沈しました。


 これくらいなら、わたしは一人で食べますねぇ。


 いやあ、役得です。こんな仕事なら毎日でもやりますよ。


「こちらはどうでしょう?」


 次のメイドさんは、抹茶とコーヒーゼリーを合わせた東洋風です。

 ああー、苦味が効いてすばらしい。

 栗のアクセントもたまりません。


「これ、いいね! バリエーションの一つとして、採用だね。季節モノとして出そう!」

「ありがとうございます!」


 メイドさん、大喜びですね。


 その後、オーソドックスなバリエーションを二つ、季節モノ一つという、「パーフェクト」なるお菓子が完成しました。


「翌日お出しするので、よろしく!」

「はい!」


 この日は、解散となります。


「でもまだ不安だよ。成功するのかな?」


 なおも伯爵は、半信半疑のようです。


「ここまでやったのです。腹をくくりましょう」

「そうだね。ありがとうシスター。キミのおかげだ」


 伯爵は、わたしだけではなく、モーリッツさんにもお礼をいいました。


「わたしは試食しかしていませんよ? ロクにアドバイスもできません」

「キミがモーリッツさんを呼んでくれたおかげで、店にも活気が戻った。こんなうれしいことはないよ」


 暗かった伯爵の顔が、安らぎに満ちています。

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