第26話 ギルバート様が我が家を訪ねて来ました
翌日も、オスカー様と一緒にギルバート様を案内した。この時も完璧に案内するオスカー様に、再び完敗したのだった。
次回こそは!そんな思いから学院から帰ると、早速この国の観光地の勉強を始めた。その時だった。
「お嬢様、ギルバート殿下が屋敷にいらしております」
「まあ、ギルバート様が!分かったわ、すぐに行くわ!」
急いで着替えを済ませ、ギルバート様の元へと向かった。部屋に入ると、ギルバート様が待っていた。
「ギルバート様、お待たせして申し訳ございません。今日はどうされましたか?」
「急に押しかけて済まなかったね。実は明後日、急遽国に帰る事になったんだ!と言うより、俺があまりにも自由な振る舞いをするものだから、ついにアルトがキレてね!今すぐ帰れと言われたのだが、何とか明後日まで待ってもらう事になったんだ」
なるほど、確かにギルバート様は少し自由に動くところがあるものね。でも温厚な陛下がキレるなんて、どれだけ自由に振舞ったのかしら?
つい苦笑いをしてしまった。
「それで、初めてアメリアに案内してもらった、あの丘の上に最後に行きたくてね。今から付き合ってもらえるかい?」
「今からですか?でも、もうすぐ日も沈みますよ」
もう夕暮れだ。今から丘に向かうとなると、夜になってしまう。
「それならちょうどいい。あの展望台から夜景も見てみたいと思っていたんだ。大丈夫だよ、護衛騎士も連れて行くし、早速行こう!」
ギルバート様に手を引かれ、そのまま馬車へと乗り込んだ。そうだ、オスカー様に連絡を入れておかないと心配するわ。
「ギルバート様、オスカー様に通信機を使って話をしたいので、少しお待ちいただけないでしょうか?」
「オスカー殿にかい?こんな事は言いたくはないが、彼は少し君を束縛しすぎだ。そもそも、君たちはまだ正式に婚約を結んでいないのだろう?それなのに、あんなにも締め付けられたら、息苦しくないかい?それに、早く行かないと遅くなるよ」
息苦しいか…
確かに早く行かないと、遅くなってしまう。
でも…
悩んでいるうちに馬車のドアが閉まり、動き出してしまった。
「えっ、あの」
動揺する私の腕を掴み、隣に座らせたギルバート様。
「アメリア、見てごらん。街のあちこちに灯りがともされ出したよ。こうやって見ると、とても奇麗だね。きっと展望台から見る夜景は、物凄く奇麗なんだろうな」
うっとりとそう言ったギルバート様。
確かに私も夜景は見た事が無い。なんだか楽しみになって来たわ。
「ギルバート様は国に戻られたら、また旅に出るとおっしゃっていましたけれど、すぐに出発されるのですか?」
「そうだね、出来るだけ早く行こうと思っている。今度はもっと遠くの国を回りたいと思っているんだ」
「そうなのですね!きっと素晴らしい国々が、ギルバート様を待っているのですね」
きっと私の見た事の無い様な国々があるのだろう。そう思ったら、無性にギルバート様が羨ましくなった。私には、どうあがいても行けない国々なのだから…
そんな話をしていると、ついに丘が見えて来た。やっぱり真っ暗だ。あまりにも暗すぎて、不気味ささえも感じる。
「それじゃあ行こうか」
ギルバート様に差し出された手を取り、灯りで足元を照らしながらゆっくりと登って行く。私が転ばない様、しっかり手を支え、さらに歩調も合わせてくれる優しいギルバート様。
前と後ろには、護衛騎士も付いている。これなら安心して丘を登れるわ。しばらく歩くと、やっと丘の頂上が見えて来た。今回はゆっくり歩いたおかげで、息切れも無く登れた。
「アメリア、今回は元気そうで良かったよ」
そう言って笑うのはギルバート様だ。そして2人で展望台へと向かった。初めて見る王都の夜景。正直、想像していたよりずっと奇麗だった。
「なんて奇麗な夜景なのかしら…こんなに素晴らしい景色は初めてみましたわ…」
「本当だね、これほどまでに奇麗だなんて思わなかったよ!」
ギルバート様もこの美しさに感動しているのか、嬉しそうに夜景を見つめている。しばらく2人で夜景を見つめた後、ふとギルバート様に話しかけられた。
「こんなに美しい夜景を、君と見られてよかったよ!アメリア、もし君さえよければ、俺と一緒に世界を回らないかい?」
えっ?一瞬耳を疑った。
「世界をですか?」
ギルバート様の言葉が信じられなくて、つい聞き返してしまった。
「そうだよ!君の両親にはすでに話は付いている。もし君さえよければ、俺と一緒に来て欲しい!俺はパッショナル王国で初めて君を見てから、ずっと好意を抱いていたんだ。どうしても君に会いたくて、この国までやって来た」
そう言うと、美しい指輪を差し出して来た。
「パッショナル王国ではね。結婚したい女性に男性が指輪を渡すのが習わしなんだ!アメリア、俺は君が好きだ。俺の妃として、2人で世界中を回ってはくれないかい?」
真っすぐなギルバート様の眼差しには、嘘偽りなど感じられない。
「私は…」
どうしていいのか分からず戸惑う私の手を掴むと、指輪の入った箱を手の上に乗せた。
「返事は今すぐでなくてもいい。オスカー殿の事もあるだろう。もし君が俺を選んでくれるなら、オスカー殿の事も責任をもって対処するつもりだ。それから今回の件は、アルトは全くのノータッチだ。だから、もし嫌ならはっきり断ってもらっても構わない。断った事で、君の家か不利益になる事は一切ない。だから、君の意志で判断して欲しい!」
そうはっきりと告げたギルバート様。私の意志で決めるか…
「返事は明後日、俺が国に帰るときに聞かせて欲しい。もしOKなら、そのままパッショナル王国に来て欲しいから、荷物を持ってきてくれ。ダメなら、そのまま指輪を返してくれたらいいよ。さあ、さすがに冷えて来たから帰ろうか。今日ここで、君に気持ちを伝えられて良かった!俺に付きあってくれてありがとう」
そう言うとにっこり笑ったギルバート様。帰りも同じ様にギルバート様と手を繋いで、ゆっくりと山を降りる。大きくて温かい手。私が転ばない様、ずっと気遣ってくれた。
そしてそのまま馬車に乗り、伯爵家を目指すかと思いきや、なぜか向かった先はホテルだ。一体どういう事だろう?
「アメリア、伯爵と相談した結果、君がゆっくり考えられる様、明後日まではホテルで過ごしてもらう事にしたんだ。それじゃあ、俺はこれで。明後日、いい返事を期待しているよ!」
私をホテルに降ろすと、そのまま帰って行ったギルバート様。残された私は、ギルバート様の乗った馬車が見えなくなるまで、ただずっと見つめ続けたのであった。
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