第5章 修羅場

ep18 変わったこと

 美波が彼女になった。だからと言って、オレの生活が大きく変わるわけでもない。変わったのは、ここだ。


「蒼空くん!! 帰ろっ」


彼女で下級生の美波がクラスまで迎えに来てくれるのだ。たまにはオレも美波のクラスに帰ろっかって言いに行きたいのだが、いつも美波のクラスの方が早い。普通にクラスでどうだったとか、授業がどうだったと、先輩後輩の関係はなく話している。1歳差なんてそんなもんだろ? 


「そういや、空くんとアリイちゃん、最近、仲良いよね」

「ヒミコさん、報告遅れたけど、紆余曲折あって美波と付き合うことになりました」

「そっか、おめでとう、あの時のウチのアドバイスが効いたのかな?」

「まぁね」

「あの時のアドバイス?」


美波が不思議そうにした。確かにあの時の。「今が最悪なら、これ以上酷くならない」的なことの話は美波にはしていない。簡潔に話した。


「なるほど、それであの時「さんくゆー」で女の子の服見てたんですね」

「はい、その通りです。でも、それがあったこそ今があるんだ」

「ハハッ、それもそうだね、じゃあね、アリイちゃん、空くん。お幸せに」


はーい、と美波が言って、オレと恋人繋ぎをした。学校内で恋人繋ぎするのって結構憧れてた。けど、いざ、恋人繋ぎされると恥ずかしいものだ。


そろそろ秋空も終わりを告げようとしている。そして、明後日は土曜日でオレの誕生日だ。しかし、美波にはまだ話していない。なぜか? 付き合ってくれていることがオレにとって最高のプレゼントだからだ。それ以上のものは望まない。もちろん、お金で買える物でもだ。というか変に気を遣われるのが苦手なのだ。


「今度の土曜日、どっか行きたいとこある?」

「んー、わたしは水族館行きたいです!!」

「了解、また調べて電話で話そっか」


ん、と初めて美波が唇を突き出した。オレはそれに応えたかった。でも、ここはオレの家の近所で、もしキスしているところを、親にでも見られたら赤飯を炊かれそうだ。


「ゴメン、ここオレの家の近所だからさ……」


そう言いつつ、オレは気持ちを抑えきれずに、美波を思いっきりハグした。


「蒼空くん、ちょっと痛い」


オレはその言葉に構わず、もう一度、愛の言葉を口にした。


「好きだよ」

「そんなことされたらわたしも我慢できないですよ?」


そのままソフトにキスをした。


そこに、ボトッと音がした。美波を離して、周りを見回すと、そこにいたのはオレの母親だった。


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