第6話

「ん、ああ、ちょっと外歩いてきただけ。アヤ気持ちよさそうに寝てたから、起こしたら悪いなあと思って。今日一日疲れたやろし……」

 不眠体質のアヤであるが、リョウと一緒ならよく眠るのだが、一緒に寝ていても、リョウがこっそりベッドから抜け出せばすぐに目を覚まし、どこへ行くんだと責める。トイレに行くのも忍び足、それでも気づかれてしまう。今日はリョウがベッドに入ってくる前に眠ってしまっていたことから、相当疲れていたことがうかがえた。

「ふうん」

 依然機嫌悪そうなまま、一応納得はしたのか、またベッドに潜り込んだアヤに、リョウも続いた。リョウのひんやりしたつま先がアヤの脚に触れ、アヤが一瞬きゅっと縮こまった。

「あ、冷たかった? ごめんな」

 軽やかな羽毛布団にくるまっていたであろうアヤは全身ぽかぽかと温かく、普段と逆の体温差が新鮮だ。いつもリョウの方が体温が高いのに。

 リョウに背を向けるように横たわるアヤに重なるように、リョウもアヤ背後から同じ姿勢を取る。パズルのピースのようにぴたっと合わさったふたりの体。密着した部分から、次第に熱を帯びてくる。

 したいなあ、とリョウは思うけれど、こんなに疲れているアヤのことを思うと、なんとなく言い出しにくい。

 アヤのうなじのあたりに鼻を近づけ、深く息を吸い込む。温泉に備え付けてあったボディソープの香り、とは別の甘く魅惑的な香りに酔いしれる。アヤだけの、リョウだけにしかわからない、甘美な芳香。香水など使っていないのに、アヤそのものから香るこの匂いに、出会ってまもなくリョウは強く惹かれてしまった。いうなれば、リョウ専用のフェロモンのような。すっかりうっとりとなってしまったリョウ、ついにはアヤの素直で細い黒髪までさらさらと玩び始めた。


 うなじを何度も鼻先で微かにつつかれて、吸った息を口から吐かれて、髪までいじくられては、眠りの浅いアヤが起きてしまうのは当然だ。突然寝返りを打ってリョウと向き合ったものだから、リョウは慌てた。

「わ、起こしてもた、ごめん」

「したいの?」

「う、う……したくない、ってわけやない、けど……」

「マグロでいいなら挿れていいよ」


 恋人として、相手の体調を気遣うのは当たり前のこと。

 ……けれど、アヤの気持ちはどうなのだろう。

 疲れていても、抱かれたいのだとしたら?


「しないの?」

 悩んで答えられないリョウを見つめるアヤの瞳は虚ろなようで、それでいて奥にはギラギラしたものが光っているようにも見る。

「今日は挿れるより挿れられたい?」

「んー、そういう問題じゃあ」

「なら、してよ」

「疲れてないの?」

「疲れてる、からリョウが満たして」


 ここまで言われて、言わせて、これ以上断る理由があるのだろうか。リョウは母親が赤子を慈しむようにアヤを扱い、優しく穏やかに抱いた。

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