風隣

ハラダトラノスケ

風隣

汗ばむ白Tと薄灰色のシーツ。

六畳間の部屋には夏の匂いが籠っていた。

ぐでーっと寝転んだまま身体の目覚めを待つ。

季節はどうしていつも思い出に化けるのだろう。

愛しいあの子の髪先に触れることの出来た夏にも。

忘れられない程はしゃいだ冒険の夏にも。

残った感情の絵の具がこびりついて記憶になる。

そして、今が脆いものだと思い知らせてくる化け物の様に。

心を痛めつける思い出になってゆく。

夏は嫌いだ。

暑いし、煩いし、

何より苦しい。

夜に散る花火も、野良猫のあくびも、八日の命も全てがずるい。

どうして、心に傷をつけるのだろう。

目で、耳で、肌で感じる夏の姿は棘だらけだ。

今年も夏が来ちゃった。

部屋には散らかった食器とps4。

ゲームでもして涼もうかな。

それとも少し外に出てみようかな。

たまには。



やっぱ、暑いから辞めた。


始まってしまえばそう長くない。

嘘が溶ける日々、氷のように。

長い祭り野良猫のあくびのように。

ただふわり、消えてった。


夏が降り、風を呼び、音に溶けて。

灯火が揺れている。

夏の香り。

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風隣 ハラダトラノスケ @sukerato0

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