第1256話、2機のT-A


 T-Aこと『ベルク』はアポリト文明の崩壊後、ディーシーのコピーであるディーツーが開発したスーパーロボットである。


『いかなる攻撃にも耐える防御性能を持った、単騎で敵部隊を殲滅せんめつできるロボット兵器』というコンセプトで作られたそれは、武骨なゴーレムといった風貌ふうぼうである。


 見た目通り重装甲。その装甲材は、ブァイナ装甲とダンジョン壁の合成材。さらに結界水晶防御を採用し、まさしく鉄壁の防御性能を誇る。


 莫大ばくだいな魔力を生み出す世界樹の種子を使ったシードリアクター。結果、無限の活動が可能。2機が作られ、1号機はエルフの里の地下、2号機はオブリーオ村の鉄巨人として現代まで残った。


 全長10.6メートルの巨人は、攻撃・防御に秀でる一方、唯一機動性に難があった。

 懸命に走らせても、これがまた鈍い。ヴィルは訓練の一環で魔人機にも乗ったことがあるが、これらが早いのなんの。ベルクの走りを『ドン亀』と表現したくなる気持ちもわかった。


『守備隊の魔人機部隊! 後退しなさい! ……って、もうやられてしまったようね』


 ベルク2機が、到着した頃には、ソードマンの中隊は壊滅していた。

 強力な装甲を持つ巨人機ノソスには、自前の武器がほとんど通用しなかったのだ。マギアライフルも機関銃もバズーカも意味をなさない。

 要するに、火力が足りない。


『ヴィル、先制するわよ! マギアブラスター用意!』


 プリムの指示が飛ぶ。

 T-Aベルクの最大火力。シードリアクターのエネルギーを胸部発射口へ集中。


『発射っ!!』


 プリムのベルク・アイン、ヴィルのベルク・ツヴァイがマギアブラスターを放った。赤黒い光線の束が敵巨人機を襲い、その装甲を溶かし、爆発させた。


「やった!」

『気ぃ抜くなって言った!』


 プリムの叱責しっせきが飛んだ。


『結界!』

「っ!」


 マギアブラスター発射により解除した結界水晶防御を展開。そのわずか1秒も経たず、強烈な紫の光線が結界に炸裂さくれつした。


『撃てるのはこっちだけじゃない! 倒した直後にボケッとしない!』

「わ、わかってる!」


 さすがに実戦経験は、悔しいがプリムのほうが上だ。T-Aの正式パイロットになり軍曹に昇格、プリムと同じ階級になったが、それでも先輩には頭が上がらない。


『結界を張りつつ前進!』


 ベルク・アインが駆ける。遠距離からマギアブラスターを撃たないのか、とヴィルは思った。敵のほうが数が多いのだから、距離が詰まる前に一体でも撃破するべきでは?


 ヴィルもベルク・ツヴァイを走らせる。だがすぐに、プリムが撃たない理由がわかった。

 敵巨人機が、頭部のビーム砲を連続して撃ってきたからだ。時間差を置いて撃ってくるから切れ目がない。


『結界なしでも、たぶん大丈夫だとは思うけど、こうも狙われちゃ照準もブレまくるかも。ヴィル。近接戦で行く! 結界通過のミサイル攻撃で目くらまし!』


「了解! クリエイトミサイル、結界通過弾っ発射!」


 機体の四カ所にあるミサイルポッドを展開、そして発射した。結界水晶を通過できる弾頭に処理されたミサイルは飛び上がり、を描いて敵巨人機の頭上から降り注いだ。


 ――遅いっ!


 牽制けんせいの弾幕を張りつつ距離を詰める。しかし鈍足のT-Aではなかなか難しい。


『ん?』


 プリムが何かに気づいたような声を発した。何かと聞くより早く、ヴィルもそれに気づいた。

 デンと夜空にそびえてきた巨大浮遊物体が、至る所から火を噴きながら高度を落としてきたのだ。


「落ちる!?」

『ヴィル! 停止! 前進中止! 落下による衝撃波に警戒!』


 それは落ちてきた。巨大浮遊物体ケントロンの先端が大地に突き刺さると、ぐにゃりと曲がり、これまでとは比べものにならない大爆発が起きた。


『ショックウェーブ、来るっ!!』


 大地を引き剥がして光が視界を覆った。激しい音が響き、スティグメ帝国の巨人機たちを吹き飛ばす。そして衝撃波が結界水晶に直撃し、ヴィルは身構えた。



  ・  ・  ・



 巨大浮遊物体の爆発の衝撃波は四方へ広がったが、ノイ・アーベントは結界水晶の防御で衝撃波自体は阻止した。

 だが、敵浮遊物体の装甲材によっては結界水晶を無効化する可能性もあるので、被害の確認は必要だろう。飛び散った破片が屋根に刺さったとか、割とありそう……。

 俺は艦長席を立った。


「厄介なデカブツは仕留めた。あとは、アンノウン・リージョンの始末だな」

「出るの?」


 アーリィーが振り返った。


「地下都市攻略隊はプロヴィアに回してしまったが、敵に先手を取られた以上、あっちを始末してから、と言ってられないからな」


 この下にある敵の地下都市を落とす!


「ということで、分身よろしく」

「了解」


 俺の分身が艦長席に座っている。こういう時、自分が二人いるって便利だよな。

 俺は格納庫デッキへと降りた。ディーシーがついてくる。


「タイラントで直接乗り込むか?」

「ああ、それが可能な機体だ」


 小型化したシードリアクターを搭載できたことで、魔力消失空間内でも戦闘ができる。アーリィーのリダラ・バーンやサキリスのリダラ・ドゥブなどの魔神機は、魔力消失空間では動かなくなるから、連れていくわけにいかない。

 開発中のものを除けば、今ここで魔力消失兵器を使えるのが俺のタイラントしかないときたもんだ。1機でもあるのは、運がいいのか悪いのか。


 ともあれ、これ以上ヴェリラルド王国に敵が来るのは阻止したい。敵さんがせっかちだから、こっちが仕掛ける前にきちゃったわけだけど。


「お供がいないのも寂しいだろう」


 ディーシーは言った。


「魔力消失空間でも戦える戦力を、ということで、スフェラに言ってこちらでも用意した」

「……魔人機?」


 あからさまに黒い機体が複数、格納庫にあった。大きさは魔人機と同サイズ。新型にも見えるが。


「可変戦闘兵器S-1シェイプシフターだ」


 ディーシーは微笑した。

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