第1163話、シャドウ・フリート、亜人難民を回収する
アーリィーの第三艦隊がコルバ侯爵率いる貴族軍を攻撃している頃、グレゴらドワーフほか亜人難民たちは黒い人に連れられて地上、開けた平原に出ていた。
「飛行する船が来るという話だったが……」
「おい、グレゴ!」
仲間のドワーフが東の空を指さした。
「あれじゃないか? あの複数の点、移動しとるぞい!」
「おー……」
周りもそちらに視線が向く。誰かが「大帝国じゃないか?」と不安を口にしたら、黒い人が『大丈夫、仲間ですよ』と答えた。
やがて、そのシルエットがわかってくると、ざわめきが大きくなった。黒い塗装がされているが、大帝国が使用する空中艦のコルベットやクルーザーだったからだ。
難民の中には、これらの建造に工員として参加していた者もいるため、自然と恐怖を覚えたようだった。
その艦艇群の中から、大型の艦が降りてきた。黒い人が指さした。
「あれは
Ⅰ型改強襲揚陸艦。簡易兵器製造計画で作られた大帝国風ウィリディス艦艇である。全長150メートルと、今となってはやや小型。Ⅰ型クルーザーをベースにしており、共通部品を増やすことで量産性を高めてある戦時急造艦だ。
胴体中央が巡洋艦、艦の左右両舷に陸戦隊の収容設備などがある。本来は魔人機や戦車、陸戦隊を載せるのだが、今回は難民救助のために飛行甲板にヘリや揚陸艇のみを搭載し、後は空になっている。
「さあ、行きましょう。味方が敵を防いでくれていますが、最近はより混沌としていますからね」
「何とかって帝国が攻めてきたんだってな」
「スティグメ帝国というらしいです。吸血鬼ですよ」
黒い人の言葉に、グレゴは顔をしかめる。
「ゾッとするな。吸血鬼なんて本当にいるのかね?」
自称か、残忍過ぎてついたあだ名みたいなものじゃないか、とグレゴは思った。
降下した強襲揚陸艦へ、難民たちは移動を開始する。
「大帝国の皇帝も、そいつらとの戦いでおっ死んだとか」
「戦死となっておりますが、正直疑わしくありますね。皇帝にはとある噂があるのですが――」
「不死身のディグラートル、だったか?」
「ご存じでしたか」
「噂はな。いろいろ悪口を含めて、聞いたことはある。だが、死んだってんなら、不死身ではなかったってことだろう?」
グレゴがそう指摘するが、黒い人は首をすくめてみせた。
「本当に死んだのか、疑わしいのですよ。死んだと思われた状況から、ひょっこり帰ってくるから、不死身なんて言われているわけで」
「じゃあ、皇帝も突然帰ってくるってか?」
そんな馬鹿な、とグレゴは首を振った。
「でもその皇帝がいなくなったからこそ、大帝国は混乱しているんだろう?」
「ええ、軍部と議会、それと貴族軍で内部分裂を起こした」
「で、オレたち亜人が追い立てられている……。クソッタレだな」
ドワーフは不機嫌になった。揚陸艦の後部ハッチが開いていて、そこから難民たちはゾロゾロと上がっていく。
「近くで見るとでかいな。まるで城みてぇだ」
「ですね」
「これが空を飛ぶっていうんだからな……。信じられねえ」
「飛んでいるところを見たではありませんか?」
「そうだ。実際に目にしていて、まだ信じられんのだ」
グレゴは仲間たちと強襲揚陸艦――『トライアンフ』に乗艦した。これで
・ ・ ・
バルムンク艦隊は、ステルス航行でディグラートル大帝国領空にいた。
アーリィーの第三艦隊が貴族軍を叩いている間、シャドウ・フリートが亜人難民を救出する。
では、俺のバルムンク艦隊は何をしているのかと言えば、大帝国最大勢力である軍部ならびに、中立を決め込んでいるものの本国防衛の任務に当たっている海軍を見張っている。
連中の言うところの反乱者であるシャドウ・フリートが出てきたと知れば、亜人排斥に関心がなくても迎撃に出てくるに違いない。
それだけ大帝国の連中には恨まれているということだ。
とはいえ、貴族軍が潰れるのを期待している軍部や議会派は、今回のそれを見て見ぬフリをする可能性もなくはなかった。
だからこちらも静かに潜伏し、待ち伏せの態勢を整えるのである。
さて、俺は戦艦『バルムンク』の執務室にいた。シェイプシフター諜報部からの資料を前に、眉間にしわが寄るのを感じた。
大帝国の魔神機パイロット――風の魔神機にグレーニャ・エル。ドゥエル・ファウストにはレオス・テルモン……。
魔法文明時代からの生き残り。どういう経緯かはわからないがこの時代でまだ魔神機を操っている。
ウィリディス軍として激突したが、今後もそういうことがあるんだろうな。……説得したら、こっちへ来てくれないかな。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「どうぞ」
俺が返事すると来客がやってきた。
「父さん、呼んだ?」
魔法人形としてアポリト帝国で育った少年レウである。俺は執務机の前の椅子を指さした。
「こっちへ来て、座ってくれ。お前に相談したいことがあってな」
「うん……なんだい?」
幾分か緊張した顔になるレウ。大丈夫、別にお説教とかそんなんじゃないから。
そもそも、品行方正なレウ君は叱られるようなことはこれまでしていないのだ。
「レウに見てもらいたいものがあってね。……これなんだが、どう思う?」
一枚の写真を渡す。そこには金髪の少女がひとり映し出されていて――
「アリシャだね……うん、少し歳を重ねたみたいだけど」
やっぱりそうか――俺は頷いた。
レウと同じ魔法人形だった少女。
「でも……アリシャは、あの時代で……」
彼は眉をひそめた。アリシャは新生アポリト帝国との戦いの中、未帰還からの戦死判定されたと聞いている。つまり死んだと思われていた。
「この人は、実はアリシャのお姉さんだったり……?」
レウはしげしげと写真を見ながら言った。俺は教えてやることにした。
「その少女の名はセラス。ディグラートル大帝国、シェード遊撃隊に所属している魔術師だ。そして、土の魔神機、セア・ゲーのパイロットでもある……」
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