第1111話、勝ちは揺るがない
巡洋戦艦『ディアマンテ』の左舷下方より、敵の新型リダラが迫る。こいつも、例の対艦用の
旗艦コアであるディアマンテは叫んだ。
「対空防御!」
光線対空砲が、すさまじい速度で光弾を吐き出し、弾幕を形成する。……いや、相手は防御障壁持ちの魔人機だ。簡単には墜ちん!
「ディアマンテ! 左急速回頭! 同時に主砲で照準! できるな!?」
「アイ・サー! 急速ターン! 第一主砲、射線を敵に向けます!」
右舷艦首のサイドブースターを全開! 全長272メートルの巨艦が左下方へと艦首を振った。
「精密射撃の時間はない! 射線にかすめるならぶっ放せ! 艦首一番、二番――」
巡洋戦艦『ディアマンテ』の急速旋回により、迫る敵魔人機の姿が正面へと移動する。戦艦から見れば小さ過ぎるそれだが、ほぼ艦首の間近にまで迫っていた。
「撃てっ!!」
35.6センチ連装プラズマカノンが火を噴いた。いかに魔人機の
敵リダラタイプも右手の武器を放った。紫色の閃光が、青いプラズマ弾と交差し、拡散した。
直後、敵機の脚が消滅し、『ディアマンテ』の艦首をはじめとした艦体に爆発と衝撃が起きた。
しかしモニターに表示された各部の被弾レベルは黄色。危険を表す赤にはほど遠い。方向転換して、被弾面積を小さくしたのが効いたか……?
「敵機は……!」
高度を落としていく敵魔人機。直撃しなかったのは、相打ちの結果か、精密射撃を捨てた影響か。いや、確実性を犠牲にしていなければ、こちらが致命傷を受けていた。
「二番砲塔、ターレット被弾、旋回不能。左舷対空機銃に損害発生」
ディアマンテが被弾報告をする。被弾速報は、もう確認したよ。
「艦のダメージコントロールを実行。……敵はどうなった?」
「離脱行動にかかっています。二機
蜂の一刺し、というには結構やってくれた。だが戦況モニターをざっと眺めたところでは、大半の艦艇は健在。全体から見れば、しょせんは軽微か。
「閣下、見事な操艦指示でした。当艦の被害を抑えることができました」
ディアマンテが感謝してきた。人型になっているとはいえ、コアからお礼を言われるとは思わず、こそばゆい。
「被弾はしてしまったけどね」
俺は軍帽を被り直した。指示したとはいえ、急速ターンの影響で司令官席で踏ん張る格好になった。遠心力かかるくらいのスピードで振り回されたから、固定していない物はひっくり返って大惨事だったかもしれない。
まあ、それくらいでなければ、敵と正対なんて間に合わなかったが。
「敵魔人機による奇襲の被害報告がまとまりました」
ディアマンテは改めて報告した。
「駆逐艦『サトカゼ』轟沈。巡洋戦艦『ツクバ』、高速巡洋艦『ミクマ』が大破、墜落により撃沈。航空戦艦『ヒュウガ』中破、格納庫の炎上は間もなく鎮火とのこと……」
「
聞けば、敵機の攻撃で艦体後部の飛行甲板と格納庫に直撃を受けたらしい。
「ほか、戦艦『ウォースパイト』が被弾。後部三番砲を喪失したものの、戦闘・航行ともに支障なし。同じく『ヤマト』も攻撃を受けましたが、シールドにより損傷なし」
つまり先の少数機による襲撃は、巡洋戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦1の3隻を失い、『ディアマンテ』と戦艦2隻が中破ないし小破ということだ。
たった数機による被害としては大きい。魔人機にも戦艦を一撃する火力を持たせられるというのは、やはり侮れない。
「まさか、大帝国がこのような戦術をとってくるとは……」
「そうかな? 兵器はしょせん武器を使うためのプラットフォームだ。火力さえ用意できるなら、航空機や魔人機にだって軍艦は沈められるさ」
元の世界でもあったな。ちっぽけな航空機で巨大戦艦は沈められない云々。それが第二次大戦でひっくり返され、航空機の時代が到来した。もっとも対策さえできるなら、どちらが強いか、というのは変わるものだ。
「俺だって、魔人機にプラズマカノンを持たせて、敵船団への襲撃もやっている。そこまで
ベヒモス隊に、揚陸艦隊を襲わせたが、あの一撃離脱を真似されたのかもな。
「損害を差し引いても、今回の会戦におけるこちらの優位は揺るがないよ」
「はい、我が方の勝利です」
ディアマンテは頷いた。俺は艦隊決戦を含めた損害表を確認する
「艦隊決戦には勝ったが、まだ終わりじゃない。大帝国の陸軍さんは、エルフの里攻略を諦めたわけじゃないからね」
決戦時の被害は、戦艦『ラミリーズ』軽微な損傷、巡洋戦艦『
重巡洋艦『
それ以外は
駆逐艦は『
第八駆逐隊は『
こう見ると、艦隊決戦の時は、危ないところまで追い込まれた艦艇はあったが、沈められた艦艇はなかった。これはウィリディス艦艇が敵の性能を上回っていたこともあるが、決して油断はできないと思う。
敵巡洋艦の攻撃が小型の駆逐艦を狙えば撃沈される率はあがるし、そうはならなかったのは、こちらの巡洋艦がよく引きつけていたからだ。……妙高と最上は危なかったけどな。
とはいえ、敵は戦艦25隻、昨日の奇襲で第四艦隊を叩いた分を含めれば50隻を失い、巡洋艦50、空母20も全滅。フリゲートが少数残った程度という、帝国からしたら目を覆いたくなるような損害を与えることができた。
「ひとまず、損傷艦は、アリエス浮遊島軍港に戻そう。まだ大帝国の地上戦力が残っているから、艦隊全部を引き上げさせるわけにはいかないが」
「ですが、閣下。古代樹の森で戦闘となれば、艦艇はもちろん、航空機でも巨大な木に阻まれて満足な支援はできないと思われます」
ディアマンテが指摘する。俺は首を横に振る。
「地上戦力が残っている以上、大帝国は増援の艦隊を送ってくる可能性が高い」
戦力が残っているエルフの里攻略軍を見捨てるのでない限りは、まず送ってるだろうな。
「そうであるなら、まだ迎撃のための艦隊は必要だ」
「承知しました。では損傷艦と、残る艦隊の再編成を急ぎます」
「頼む」
さて、艦隊はディアマンテに任せて、ベルさんと連絡を取ろう。そっちの敵陸軍さんはどうしているかな?
『敵は進軍を始めたぞ』
ウィリディス・エルフ連合軍地上部隊にいるベルさんが通信機で報告した。
『ドゥエル、ガリッグを主力とした魔人機とゴーレムを中心にした部隊を
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