第1059話、世界樹、倒れる
とりあえず、これで俺はフリーハンドで動ける。
帝国城の近くで、ドンパチやることで敵戦力を引きつけるという役割を、俺は果たした。そこで自爆したように見せて、集まった敵を
ジン・アミウールは最終決戦の最中に戦死する――という歴史通りの流れをクリア。これで反乱軍には、俺が死んだという演出をした。
カラクリとしてはこうだ。
敵を引きつけたところで、魔導放射砲――ウィリディス艦艇に搭載した使い捨て超兵器。大魔法バニシング・レイを艦に使わせる武器に用いる大魔石を爆発させて、寄ってきた敵を巻き込む。
俺とベルさんは、爆発の寸前に転移魔法で範囲外に逃げる。それだけだった。
帝国城にいただろう、タルギア皇帝は、さぞ肝を冷やしただろうな。自分を守るために集結させた戦力が、根こそぎ消滅してしまったんだから。
いや、それとも俺が死んだと喜んでいるかな……?
まあ、それはそれとして――俺は、改造クルーザー『グラウクス』の艦内に転移した。
問題はこっちよ。早く魔力消滅装置を発動させないと作戦は
「結局、俺が何とかするしかないのかね……」
吸血鬼兵とシェイプシフター兵が交戦している。その中を、イオンが駆けている。そうそう、それでいい。格納庫から見えなくなったところで、俺はさらに侵入しようとする敵兵にエクスブロードの魔法を放ち、業火で焼き尽くした。一時的に後続を断つ。
「さてさて、もう少し時間を稼いでやらないとな……」
グラウクス艦内の魔力消滅装置の場所について、俺はマップでチラ見した程度。こんなことなら、事前に下見しておけばよかったと後悔している。
その光景を脳裏に焼き付けられたなら、転移魔法で跳べたのだが……。
今はイオンに現場まで案内してもらうしかない。
だがそのためにも、もう少し外を引っかき回しておかねばならない。
「ディーシー、連絡はついたか?」
黒髪美少女姿であるディーシーは、俺の後ろで魔力念話を飛ばしていた。
「ああ、『ネフリティス』のディーツーに繋いだ」
・ ・ ・
アンバル級軽巡洋艦改『ネフリティス』の艦橋。キャプテンシートに座るディーツーは、ジンとディーシーの指示に、思わず相好を崩した。
「了解した。『ネフリティス』は急行する。操舵、進路変更! 五番浮遊島へ突入せよ!」
『アイアイ、マム!』
新生アポリト軍のクルーザーにヘビーカノンを撃ちまくりながら、『ネフリティス』は速やかに回頭すると浮遊島へ突進した。
「僚艦はどうなっている?」
『残存艦1! シズネ1、本艦に後続します!』
シズネ級ミサイル艇が、『ネフリティス』に続く。その後方から、飛行クジラや敵クルーザーが反転して、追いすがる。
「まあ、こっちのほうが脚が速いんだ。追いつけまい」
ディーツーは、ほくそ笑むと視線を正面――五番浮遊島に向けた。高くそびえる世界樹が見え、そのスケールは巡洋艦と比べても途方もなく大きく見えた。
「これだけ大きい的だ。はずしようがないな。――魔導放射砲、発射用意!」
アンバル級の艦首に搭載された切り札兵装『魔導放射砲』の装甲カバーが開かれ、発射形態に稼働する。
莫大な魔力エネルギーを放射、対象を破壊するその一撃は、決戦兵器である。
よくあるSF系ではこの手の武装は、エネルギーをチャージする必要があるが、魔導放射砲はその必要がないというメリットを持つ。
その代わり、エネルギー源である魔石を一発で使い切る使い捨て兵器である。ゆえに、一度使えば、魔石を交換しなければ再使用不可能という欠点があった。
『目標、軸線に乗った!』
「砲術長……撃て!」
ディーツーの号令。『ネフリティス』の艦首から青い光の柱が放たれた。
ジンのバニシング・レイを再現した、とはよくいったもので、その凄まじいまでの光は五番浮遊島の奥にそびえる巨大な世界樹の根元よりやや上に直撃した。
木は熱に溶け、その分厚い大木を掘り進める。『ネフリティス』の放射砲がエネルギーを切らした時、世界樹は直撃を受けた箇所を貫通され、大穴が穿かれた。かろうじて残った部分では葉の生い茂る上部を支えきれず、世界樹は傾き、倒れ始めた。
「右舷方向へ回避機動! 反転する必要はない。世界樹の右を抜けていけ!」
世界樹に高速で接近していた『ネフリティス』が左舷側スラスターを展開して、倒れてくる大木を避ける。
倒壊した五番浮遊島の世界樹は、改造クルーザー『グラウクス』のそばをかすめるように地面に突っ伏した。大きな地震が辺りを襲い、クルーザーの包囲の一角が下敷きになった。四脚戦車が、アポリト軍魔人機のナイトやデビルが巻き込まれて潰れていく。
そして五番浮遊島に吹き出していた魔力が世界樹の倒壊により、一時的に弱まった。
・ ・ ・
震度はいくつくらいだ?
クルーザー『グラウクス』艦内にいた俺は、世界樹が倒れるという
「凄い揺れだったな」
「ああ、立ってられないくらいだ」
通路で尻もちをついていたディーシーの手をとって起こしてやる。俺は魔力念話を使う。
『ベルさん、そっちはどうだい?』
『表はだいぶ混乱しているよ』
再び魔人機レアヴロードを駆り、外の防衛戦に参加するベルさん。さらにこの騒動のどさくさに紛れて、数機の魔人機をディーシーが転送させて、こっそり防衛戦力に加えた。
『とりあえず表は任せろ。その代わり、魔力消滅装置を使う時は、その前に報せてくれよ。魔力が消えちまったら、さすがに転移に自信がないからよ』
『あれ? ベルさん、転移の指輪……渡してなかったな』
俺は苦笑しつつ、自分はしっかり転移の指輪をつけているのを確認する。ディーシーにも新しい転移の指輪を渡しておく。
「こいつがあれば、魔力が消えても、内蔵魔力で一回は転移が可能だ」
魔力消滅装置が発動すれば、大気や土壌から魔力が消える。人間や魔法具などは、うちに持っている魔力があればしばらく魔力が使えるが、そこから増えることはなくなる。
元の時代へ戻る転移になると、普通に魔法を使うやり方だと魔力不足で不可能、なんて可能性もあった。そういう時のために転移の指輪を保険として持っておくのだが……。
『ベルさんの魔力量なら、魔力消滅してもしばらくは魔法が使えるだろ?』
『だと思うがな。世の中、何が起こるかわからん』
『わかった。その時は報せるよ。……外は任せるぞ』
『任された!』
魔力念話を切り、俺はディーシーに頷くと、先を急いだ。吸血鬼兵が通路に割り込んできて、こちらの進路を塞ぐ。
「邪魔だってんだ!」
ファイアボール! ――俺は火球を撃ち、吸血鬼兵をそのまま
「イオンに追いつかないとな。彼女は大丈夫か……?」
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